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大阪新音50周年記念演奏会
朝比奈隆のブルックナー

日時
2000年11月27日(月)午後7:00開演
場所
ザ・シンフォニーホール
演奏
大阪フィルハーモニー交響楽団
指揮
朝比奈隆
下野竜也(*)
曲目
1.大栗祐…大阪新音30周年のための祝典音楽「大阪のわらべうたによる狂詩曲」(*)
2.ブルックナー…交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」(ハース版)
座席
1階G列19番(A席)

はじめに

 この演奏会は大阪新音の活動50周年を記念して開かれたのですが、曲目の発表が遅かったこと、新音の宣伝が充分ではなかったこと、があって朝比奈のブルックナーにしては意外に思うほど客の入りが少なかったです。少し前に行われた京都でのコンサートも空席の目立った演奏会だったそうですが、非常にもったいないことです。
 まあシンフォニーホールは客が少ないほど、残響音の高音成分がすうとよく伸びて、響きがとても繊細になるのでこっちとしたら願ったりの状況ですけどね。

CDについて

 アジアのCD安売り王であるNAXOSがアジアローカルのタイトルを発売することにしましたが、その第1弾として日本の曲を録音し始めました。
 この中の1曲として今日演奏される「大阪のわらべうたによる狂詩曲」(大栗祐作曲)が含まれていて、このコンビによって大阪フィルハーモニー会館で録音されました。発売は未定でいつになるか分りませんが、リリースが非常に楽しみなディスクです。

 一方、御大も2001年はチクルスと言って良いほどブルックナーを取り上げます。これらはEXTONによって録音される予定です。
 気になる曲目は定期公演の3・7・8番、「朝比奈隆の軌跡2001」の5・8・9番、福岡での5番、名古屋での8番、東京での3・8番が今のところ判ってます。これに今年11月に行った京都と今日の4番を合わせてブルックナー選集として発売されます。御大のスケジュールが合わず全集にはならないと言うことなので、残念ながら1・2・6番が取り上げられることはないでしょう。
 どれだけのコンサートが録音されるかは分りませんが、今年のベートーベン全集と同じパターンで、すべてのコンサートが一旦はCDにて発売されるのかもしれません。(あくまで希望)
 何と言っても3番が入っているのがとても嬉しいじゃありませんか。

老若二人

 今日は前半で下野さん、後半で朝比奈御大が棒を振る変則的なキャスティングですが、この組合わせは去年の定期公演に続いて2回目となります。あの時も御大はブルックナーの交響曲第4番でしたが、ブルックナーを振ってさらに一曲というのはもう辛いのでしょう。
 で、前半を担当している下野さんとは誰かと言いますと、かつて大フィルの研修員をしていた31才の新進指揮者です。この演奏会が終わった頃に行われた東京国際指揮者コンクールに見事優勝して、まさにこれからの指揮者だと言えます。

大栗祐…大阪新音30周年のための祝典音楽「大阪のわらべうたによる狂詩曲」

 ちゃきちゃきと下野が舞台に登場したが、背の低い人だ。その分腹周りががっちりしていて、マメタンクという言葉を思い浮かべてしまった。なにか愛嬌を感じさせるひとだ。
 曲の方は大阪の童歌を題材としているそうだが、どの旋律も全然知らない。威張って言う必要はないが、河内音頭と戎さんの祭囃子しか知らないので元ネタは全く解らなかった。
 注意して欲しいのは童歌を題材にしているが、それをそのまま使用することはなく、充分に咀嚼(そしゃく)を行ってから構成していることだ。バルトークとハンガリー民謡との関係を思い浮かべてくれれば分かりやすいと思う。ただ、なかにはバルトークを聞いて「ハンガリー民謡って現代音楽みたいだね」という人がいるので、「大阪の童歌ってとっても歌うの難しそうね」と言い出すひとがいないか心配してしまう。

 演奏の方は、レコーディングを経験しているため非常にこなれた演奏を繰り広げた。鋭角的な響き(不協和音ではない)がダイナミックに曲を牽引するが、要所で子守歌のうっとりとしてしまう旋律が織り込まれ、最後まで聞かせるものだった。
 また下野の指揮ぶりもシャープな音運びをし、オケを存分に鳴らす手腕はたいしたものだと思った。何より演奏からエネルギーが伝わってくるのが良い。感情垂れ流しの爆発系ではなく、知的に整理させているのがあまりいないタイプなので面白いと思う。ただやや一本調子だったのが残念だが、それは今後の課題だろう。この指揮者、期待して良いと思う。

ブルックナー…交響曲第4番

 20日前に息子ヤルヴィーによる同曲を聞いたが、この時は朝比奈に比べてテンポが速いかなと思った。しかし今日の演奏はそれを上回るスピードでグイグイ進んでいった。24日前のN響との演奏を聞いていたのである程度予想はしていたのだが、正直驚いた。
 かと言って中身の薄いものではなく、ここ3ヶ月ほどの不調がウソのように隅々まで気の張った演奏となった。
 ヤルヴィーの演奏もなかなか良かったが、やはり朝比奈のブルックナーは他にない味を持っている。意外に思うかも知れないが、その音は繊細で緻密に積み上げられている。低音部から全パートが良く鳴っているため豪快な印象を持たれやすいが、同じオケにて短期間に違う指揮者で聞くとその違いがよく解る。また繊細で緻密に積み上げられた音からは例えようのない寂しさが漂って、ヴァントと同じように凛とした佇まいを保ちながら彼の厳粛と言っていい堅さとはまた別のしなやかさを有している。

 オケの方で特筆すべきことはチェロパートの出来の良さだ。トップの2人など実に楽しそうに演奏しているように見える。
 この年一連のベートーベンチクルスでも感じたが、いま大フィルを音楽的に引っ張っているのは間違いなくチェロのトップだろう。
 演奏の方はどの楽章もすべて良かったが、第2楽章の寂寞とした雰囲気が強く印象に残っている。またヤルヴィーの時は今一つのように感じた終楽章の造詣の深さはやはり見事なもので、曲を構成する各ブロックの有機的繋がりの良さ、一歩一歩頂点に向かっていく歩みの強さはとても素晴らしいものだった。

万雷の拍手

 最後の音が鳴り響くと熱狂的な拍手と歓声が起こりました。もう少し余韻に浸りたい気分だったのですが、そうもいかないようです。まあ間髪入れずに拍手が起こることは充分予想できたことですから、別に気にしませんでしたけど。
 舞台袖から熱い拍手で何度も呼び出される御大。今日も一般参賀は確定のようです。ただ少し疲れた表情の御大が気になりました。
 2回答礼に現れた所で、御大はコンマスに解散するようにサインを送りました。そこでオケは御大に続いてサッと解散して、ステージに詰めかけた観客が無人の舞台に拍手を送り続けました。
 やがて下手の扉が開かれて朝比奈御大が現れると、一段と大きな拍手と歓声が起こりました。
「朝比奈せんせ〜い!」
 というおばちゃんの声も掛かり、みんな軽い興奮状態のまま演奏会の幕が降ろされました。

おわりに

 総じて、「やっぱり朝比奈のブルックナーは格別だね」と思った演奏会でした。

 今日の4番を皮切りにブルックナーチクルスが始められましたが、期待できるものとなるのではないでしょうか。後はお爺ちゃんの体調のみに掛かっているでしょう。
 このコンビによる次の演奏会は「第9シンフォニーの夕べ」です。これは御大生涯251回目の第9になるそうです。(250回目は12/29の演奏会でした) さてどんな演奏になるのでしょうか? 楽しみです。


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