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大阪フィルハーモニー交響楽団
第343回定期演奏会

日時
2000年11月7日(火)午後7:00開演
場所
フェスティバルホール
演奏
大阪フィルハーモニー交響楽団
独奏
諏訪内昌子(Vn)
指揮
パーヴォ・ヤルヴィ
曲目
1.ショスタコーヴィッチ…ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調
2.ブルックナー…交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」
座席
Rサイド1階M列3番(A席)

はじめに

 3日前に東京でロマンティックを聞いたばかりなのに、また同じ曲を聞こうとするなんて、私も業が深いですね。(5日後にはまた東京でブルックナーを聞きに行ったし) 行くのを控えようかと思いましたが、せっかくなので行くこととしました。
 フェスティバルホールに着いてみるといつも以上に客がたくさんいて、会場の熱気もいつも以上でした。大フィルに世界的な指揮者が来ることはあまりないので、その分期待が高いのだろうと思います。

息子ヤルヴィ

 パーヴォ・ヤルヴィと言えばエストニア出身の大指揮者ネーメ・ヤルヴィの息子(ちなみにネーメのお兄さんヴァッロも指揮者)で、アメリカで教育を受けた新進の指揮者です。この“パーヴォ”という名前は北欧指揮者界の長老パーヴォ・ベルグルンドにあやかって名付けられたそうです。最近シベリウスのCDを発売してスターの階段を歩み始めています。
 その彼が北欧ものではなくブルックナーを引っさげて日本にやって来ました。この日の大フィルの他に東京交響楽団にも登場してこの曲を振りました。
 ブルックナーなんてアメリカじゃ受けないし、ヨーロッパじゃ「若造が」って振らしてくれないし、日本で試したかったのではないのでしょうか。だからブルックナーばっかり演奏している大フィル(きっと世界的にも有名でしょう)との協演は渡りに船だったに違いありません。
 世界制覇にドイツものは必要不可欠ですからね。

ショスタコーヴィッチ…ヴァイオリン協奏曲第1番

 開始早々弦が切れるアクシデントがあり、ヤルヴィが「モーメン」と言って演奏が中止となった。背筋がぞくっとするほどの集中力を見せていただけに諏訪内のテンションが保てるか心配したが、5分ほどして再登場し、初めから仕切直しとなっても彼女の集中力が切れることはなかったのでひとまず安心できた。(厳密に言うと弦が切れた所に差し掛かるまでは最初のキレがなかった)
 素晴らしい音色は言うまでもないが、このやたら難しい曲を見事に弾きこなし、特に終楽章では熱気溢れる演奏を繰り広げ、オケをグイグイと引っ張ってクライマックスを形作る手腕は非常に見事だった。
 前回聞いた演奏で彼女を見くびっていたが、今回少々見直してしまった。
バッハ…無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番よりアンダンテ
 拍手に応えアンコールを1曲。メロディと伴奏を同時に弾かなくてはならない難曲だが、その両方を美しく歌おうとする姿勢に好感を感じた。ただ少しぎこちなさがあったのでこれが解決できたなら、諏訪内の重要なレパートリーになるだろうと思われる。

ブルックナー…交響曲第4番

 曲の冒頭はゆったりと始められたが、途中でグッとヤルヴィがドライブすると後は速めのテンポで進められた。しかし低音からがっしりと積み上げられるブルックナーサウンドが薄れることはなく、見事な安定感でどしっとした音楽を聞かせた。
 「こける、こける」とよく言われるホルンもほとんどミスることなく(ゼロではないが)立派に吹いていた。
 また面白いことに普通の指揮者なら訂正してしてしまうブルックナー特有の不可解な弓使いや半音のぶつかり合いなどを譜面通りに演奏していた。普通のオケならとっととやりやすいように変えてしまうのだろうが、弦セッションが一生懸命ギコギコとやっているのが目に映った。こんな所に朝比奈ニズムが息づいていることを感じてしまう。ヤルヴィもオケが自発的にやっているので何も言わないのだろう。
 今回はノヴァーク版を使用しているため終楽章でシンバルがバシャーンと鳴ったが、相変わらず変な所で鳴らすなと違和感を感じてしまった。そこでふと思ったが、大阪フィルは世界的にも珍しいハース版のブルックナーしか演奏していない楽団ではないか。辛うじて北ドイツ放送交響楽団がこの後に続くだけで他にハース版で演奏している団体があるなんて聞いたことがない。
 演奏のほうは1から3楽章まで大変素晴らしく、特に平凡な演奏ならまず退屈してしまう第2楽章をしみじみと聞かせた辺りは特筆すべきだ。しかしこの曲でもっとも重要な第4楽章が、やや散漫な印象を与えたのが惜しかった。この楽章はまさにブルックナーの真髄が現れる部分で、ここを素晴らしく聞かせられるかどうかで指揮者のブルックナーへの適正が判ってしまう。ただ曲全体の構成が断裂的なブロック構造をしているため、きちんと整合を取るのは難しい。
 しかしオケが完全に鳴り切り、大フィルが持つ荒々しい力強さを十二分に引き出した手腕は見事で、このオケとの相性が非常に良いのではないだろうかと思ってしまった。またこのフェスティバルホールの舞台に立って欲しいと思った。
 演奏が終わると盛大な拍手が起こり、ブルックナーに対して耳の肥えた朝比奈信者だらけの聴衆に大きな満足感を与えた。

おわりに

 なんか不満げに書いているかのような文面ですけど、至高のものを聞いた感はないんですが、ブルックナーを聞く喜びはたっぷりと味わうことができました。ただ帰り道のパンフルートの音のでかさにその気分が害されただけです。(ヨーロッパ室内管弦楽団の時にもシンフォニーホールにいたな)
 話は変わりますが、東京交響楽団の方は失敗に終わったそうです。この日の演奏から考えると不思議ですが、やはりオケ側の場数の違いが差を生んだようです。

 総じて、なかなかやるやんけと思った演奏会でした。

 さて5日後には前述の通り、ヴァントの演奏を聞きに再び東京へ行きましたし、3週間後には朝比奈&大フィルのブルックナー4番をまた聞きに行きます。1ヶ月に4回もブルックナー……、そのうち3回が4番……、こんな私を笑って下さい。


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