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NHK交響楽団
第1417回定期公演(Cプロ)

日時
2000年11月4日(土)午後2:00開演
場所
NHKホール
演奏
NHK交響楽団
指揮
朝比奈隆
曲目
ブルックナー…交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」(ハース版)
座席
2階L17列21番(C席)

はじめに

 この日は朝の8時に出発し、新幹線を使って原宿に着くと昼の1時を少し廻っていました。少し焦りながらNHKホールに向かいましたが、東京人は歩くのが遅いっ。「どいてんか」と心の中でぼやきながら会場へと急ぎました。
 代々木競技場の脇を抜けながら周りを見ると、ヤケに人が多い。特に制服の女子高校生がやたらと目に付いた(目の保養?)。どうしてかというと競技場にでっかいテントが建っていて何やらテーマパークのようなものが開催されていました。とてもにぎやかな音が漏れていたから中で芝居でもしていたのかも知れません。
 また代々木公園では“ふるさと渋谷まつり”をやっていて野外ステージでの催し物とバザーが開かれていました。

NHKホール

 入り口が判らず、半分迷子になりかけながらNHKホールに到着。中に突入するとだだっ広いロビーにビックリする。で、お登りさんらしく中をうろうろしましたが、ロビーで突然拍手が起こり、なんだ? と野次馬根性で顔を出すと、タキシード着たひとが引き上げるのが見え、どうもここで開演前のプレコンサートをやっていたみたいです。
 時間も迫ってきたので座席に座りましたが、正直何だこりゃと思いました。手を伸ばせば届きそうな低い天井。ステージは全部見えるもの凄まじいほどの距離感。なんか穴ぼこから覗く感じがする。
 音響の方も直接音しか届かず、残響音はほとんど聞こえない。もっと言えば低い天井に張られた反響板のおかげでかろうじてステージの音が聞ける感じだ。だから今回の演奏会ではチェロ、コントラバス、トロンボーン、チューバの音がやたら耳に飛び込んできたが、その反対にヴァイオリンなどはくすんで聞こえてくる始末だった。一方この反響板のせいで自分の拍手が異常にやかましく、耳がおかしくなりそうでほとんど手を叩けなかった。
 まあ、椅子だけがほんのちょっとだけマシだった程度だ。こんな所余程のことがない限りもう2度と来たくない。
 そうこうしている内にN響の音合わせが済み、朝比奈御大の登場を待つのみとなった。

ブルックナー…交響曲第4番「ロマンティック」

 曲が始まると朝比奈は最初から大きな身振りでオケにガンガンと指示を飛ばしていった。今日の体調は絶好調のようだ。それだけで非常に嬉しい。N響もその朝比奈の指示を受けると即座に反応し、的確に音へと変換する。それにしてもこのオーケストラ、本当に上手い。アンサンブルがしっかりとしていて安定しきっている。今日は木管が2管で、ホルンに1つ補強を行っていただけだったが、木管はハーモニーに埋もれることがなく、金管も外国のオケ並のものすごいフォルテシモを聞かせていた。
 演奏の方は今年のベートーベンチクルスと同様に、最近の朝比奈の特長である枯れた響きの中にもしなやかな音の運びを感じさせるもので、彼の音楽を表すときによく使われる「無骨」「雄大」「悠久の流れを感じさせる」ものとは少し変わった姿となっている。
 全体的に曲想に合わせてメリハリが利いた演奏だった。特に第1楽章では指揮者にオケがぴたりと寄り添い、両者一体となった表現が大変素晴らしかった。
 一方、第2楽章はブルックナー休止などで充分な間合いを取り、枯れた風情が前面に現れて、寂寞(せきばく)とした表現となっていた。
 ただ、ハイソ的な雰囲気を持つN響だから、例えば大フィルが所有する荒馬のような力感に乏しく、この交響曲でもっとも重要な終楽章でのまるで神の門目指して階段を一歩一歩踏みしめていくような恍惚感が大フィルとのCDと比べてほんの少し後退している感がした。

ごめんね

 最後の和音が力強く響きわたると、少し余韻を味わってからブラボー屋が静寂を断ち切った。客席から暖かい拍手が指揮者に向けられた。御大も満足そうな顔をしています。
 恒例のN響からの花束を受け取ると、感謝の意を表してからそれを第2Vnの女性へとプレゼントしました。会場から笑みがこぼれる。オッサンやけに元気だ。3回目の答礼に現れたときはオケは立たず、92才のマエストロに喝采を送りました。
 この後オケが解散しましたが、3割くらいの人がステージの一番前に詰め寄せ拍手を送り続けました。しかし御大はなかなか出てこないし、今日はもう出てこないかなと思っていた所に、御大はゆっくりとステージに出てくれました。その瞬間ものすごい「ブラボー!!」の大歓声と拍手が一斉に湧き起こりました。
 かなりの長時間ステージに立って我々の拍手に応えてくれました。
 やがて御大が舞台裾に引き上げるとき、最下手の一番前にいたファンが御大に手を差し伸べました。ちょっと戸惑いながら腰をかがめてそのファンと握手する御大。すると「私も、私も」と数人のひとが同じように手を差し伸べました。御大が2、3人と握手を交わした所で、係員が「止めて下さい」とお客を制すると、御大は「ごめんね」と両手を合わせてファンに謝った。その仕草がとても可愛らしかったのが彼の人柄を感じさせて心が暖かくなりました。
 しかし私は御大と握手した客にひとこと言いたい。
「うらやましすぎるぞ、オイ」

家路へ

 コンサートが終わって、ホールの外へ出るとまだ3時半でした。まあロマンティック1曲だけだったからなあ。“ミッキーのあっとザ60分”並の短さだ。
 ホールの出口ではロビーにも山積みになっていましたが、朝比奈御大指揮の「第9シンフォニーの夕べ」のチラシを地味に配ってました。
 私がその横を通り過ぎるとき配っている人が私の前にもチラシを差し出しました。
「そのチケットもう買(こ)うたからええで」
 その人のちょっとビックリした顔が愉快でした。

 この後すぐさま東京駅に向かい(渋谷から東京まで結構な時間が掛かりますね)、新幹線に飛び乗って家に着くと午後9時となっていました。あ〜しんど。
 今日は13時間にも及ぶコンサート道中となりました(そのうち正味は1時間半……)。

おわりに

 総じて、オッサン元気で何よりの演奏会でした。

 この文章を書くまですっかり忘れていましたが、次回は明々後日の大フィルと息子ヤルヴィによるブルックナーのロマンティックなんですよね。
 ……仕事忙しいし、行くの止めよかな? う〜ん。


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