Go! Go! ジャン.
とのことでジャン・フルネさんです。今年88歳と米寿を迎えたわけですが、高齢を押して毎年のように日本へやってきてくれます。プログラムにも書いてありましたが、1歳年上のヴァントやザンデルリンクなどの名声を鑑みると不当に低いと思わざるを得ません。彼のあとにフランス音楽を体現できる指揮者が何人いることでしょう?
会場に足を踏み入れると客席の熱気が違いました。毎年良い演奏を聞かせてくれたら、自然とお客は集まるものなんですね。
またステージ上にはマイクが何本も立てられていまして、今日の模様は録音されるようでした。最初FM放送用かな、と思ったのですが、サブマイクの多さやメインマイクに4チャンネルマイクを使用していることからDVDもにらんだCD用の録音だと思いました。
レーベルはどこでしょうか? この演奏会の二日後に行われた大阪センチュリーのコンサートにも同じ装置が使われていたようですから、fontecかコジマかライブノーツだと思うのですが詳しいことは判りません。
とりあえずフルネさんの音楽を何らかの形に残すことは非常に有意義なことですから、ぜひとも発売までこぎつけて欲しいと思います。
(fontecから東京都響とのコンビでベートーベンの「英雄」が7月に発売されます)
ひざが悪いのか少しだけぎこちなく登場したフルネさんに会場から熱い拍手が送られます。背筋がしゃんと伸びた姿はまだまだ元気です。
曲が始まってまず驚いたことは大フィルが非常に気合の入った音を出していたことです。まだ一曲目だというのにまるでメインのような集中力です。
口の悪いひとに掛かれば「日本一やる気のないオケ」と叩かれる大フィルですが、今日の演奏にはそんな言葉まったく当てはまりません。ようは指揮者次第なんですね。
チェロのソロもバッチリ決まって、曲が終わると大きな拍手、そして歓声が起こりました。
日本初演となるこの曲ですが、キリスト教的な解放を表現しているそうです。けれど聞いた限りでは、「何か」への恐怖におののきながら、ついにはその「何か」の来訪を受けてしまう、といった実に後味の悪いイメージを受けました。
ひょっとすると最後に打ち鳴らされる“木”でできた楽器が「解放」の到来を表現していたのかもしれませんが、私には死がドアをノックしているようにしか思えませんでした。
一方イングリッシュホルンのソロを担当したジェークス女史ですが、この世界では第一人者なのだそうです。でも曲を聞くのに気を取られていたせいか、彼女の演奏がどうだったか余り解りませんでした。人の話によると非常に素晴らしいものだったそうです。
これも始めから元気いっぱいの演奏で、いつもは素っ気無い表情の大フィルらしくないものでした。特にリズムがはじけ、カンタービレが効いた楽しげな演奏は「ホントに大フィルか?」と思ってしまうほどでした。
フルネさんもオケに対して細かい表情付けを次々と飛ばしていて、年齢を感じさせない熱い指揮ぶりです。
終曲なんかガンガン盛り上がって非常に素晴らしい演奏となりました。
続いて、スネアドラムが第2ヴァイオリンとチェロの間に座ると本日最後の曲「ボレロ」が始められました。
この曲はよくお祭り騒ぎとなるのですが、今日の演奏は非常にストイックなもので、前曲「三角帽子」の華やかな歌いっぷりとは対照的でした。
それでも木管陣のソロが非常に素晴らしく、ついボーッと聞き入ってしまうものでした。ただ最後の盛り上がりでは大フィルの金管パワーからすれば迫力が期待より不足していて、思ったほどカタルシスが得られなかったのが残念でした。
曲が終わるとわっと拍手が沸き起こり指揮者を何度も呼び出すものとなりました。
フルネさんがソロを担当した団員を次々と立たせていきます。そのたびに客席から大きな喝采が浴びせ掛けられていきます。しかしなぜか小太鼓を担当した人にはお声が掛かりませんでしたので、「どうしたのかな」と思っていました。するとフルネさんが全員起立を合図したとき、コンマスがさっと小太鼓さんをひとり立たせてあげたのでした。これも大きな拍手が沸き起こったのですが、フルネさんはムッとした顔になったのが印象的でした。
オーケストラの流儀と指揮者の思惑が交錯する一瞬でした。
とは言ってもフルネさん、次に答礼へ現れたときには小太鼓を立たせてきちんとプレイヤーの顔を立てていましたよ。
ともあれ、一般参賀が起こるのではないかというくらいの拍手も大フィルが解散すると止み、演奏会の幕が降ろされました。
総じて、来年も来てくれるのか楽しみであり、不安になった演奏会でした。(来たら絶対行きます)
さて次回は高関さん&大阪センチュリーによる「グレイト」です。1月に聞いた「ジュピター」がすばらしいものだったので、非常に期待しております。