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ニールセン 交響曲第4番「不滅」

( この曲について

ニールセン6つの交響曲の中、もっとも有名で演奏回数の多い曲です。実際親しみやすいメロディと左右に分かれたティンパニの掛け合いが大変面白く、また吹き上げるような熱い情熱があり、ニールセン入門にも最適な曲だと思います。でも、この曲の真の姿を見せるのは意外に難しく、ニールセンが今一つメジャーになれない要因ともなっています。
《 あ行 》
《 か行 》
《 さ行 》
《 た行 》
《 は行 》
《 ま行 》
《 や行 》
《 ら行 》
FINLANDIAから発売されている“ULTIMAニールセン”と題された2枚組のCDがありますが、これはユッカ=ペッカ・サラステとフィンランド放送交響楽団の演奏です。指揮者名がクレジットされていないので気を付けて下さい。

《 あ行 》

イェンセン/デンマーク放送交響楽団(1952年) < Danacord DACOCD 351-353 >海外盤
お薦め度 ★★★☆☆

 イェンセン(Jensen)がデンマーク放送交響楽団と52年に行ったライブの録音。モノラル。これは世界的にニールセンの交響曲が紹介され始めた頃の録音だ。
 とても速いテンポで一気呵成に突き進む演奏だ。両端楽章ではその劇性がものの見事に描かれていて素晴らしい。特に終楽章のコーダで築かれるクライマックスは胸を突き上げる高揚感がある。
 一方中間楽章でも速いテンポながら、そのそれぞれが持つ性格を確実に表現できていて聞き入ってしまうものとなっている。
 しかしなにぶんライブのモノラル録音なため、音の細部を聞き取ることは困難だが鑑賞には充分耐えられるものにはなっている。


ヴァンスカ/BBCスコットランド交響楽団(2001年) < BIS BIS-CD-1209 >海外盤
お薦め度 ★★★★★

 シベリウスの交響曲全集で名を挙げたヴァンスカによるニールセン交響曲全集の第2弾として発売された2001年5月5〜6日に録音された演奏。
 切れよくパリッとした響きで、グイグイと曲を進めていく感じが胸をすく感じがして気持ち良い。多少荒削りな所があるが、次々と訪れる曲想の展開を新鮮に聞かせてくれるあたりは特筆すべき所だ。
 緩徐楽章にもっと深みがあれば最高だったが、終楽章のコーダでのスカッとした盛り上がりはなかなか素晴らしい。生気に満ちた演奏だ。
 録音ではオケが目の前に浮かんでくるような空間の捉え方と各楽器の明晰な分離がもの凄いと言える名録音だ。


《 か行 》

カラヤン/ベルリンフィルハーモニー管弦楽団(1981年) < GRAMMOPHON 445 518-2 >海外盤
お薦め度 ★☆☆☆☆

 カラヤンが手兵ベルリンフィルと81年に録音したもの。カラヤン唯一のニールセン演奏だ。
 カラヤンにしては珍しくテンポの緩急が激しいのが特徴で、基本的に遅めのテンポでじっくりと進められる。だが一方ではこの人らしく豪快に華麗にオケを鳴らし、この曲がR=シュトラウスのものであるかのような錯覚を起こさせる。特に第1楽章の提示部、再現部などは非常に立派である。
 しかしそれに反して第1楽章の展開部、第3,4楽章にまったく覇気がなく、オケ・指揮者ともニールセンに慣れていないのがよく解る。特に曲中何度も強奏される第1楽章第2主題に胸を突くような高揚感がないのがいただけない。曲の最後の最後でものすごい迫力をオケから引き出すが、せこせこと速まるテンポと合わせて何一つ心に迫ってくるものがない。
 この曲は自分の心をむき出しにしないと全く魅力のない演奏となってしまう。


ギブソン/スコットランド国立管弦楽団(1979年) < CHANDOS CHAN 6524 >海外盤
お薦め度 ★★★★☆

 シベリウスの交響曲全集ではすばらしいシベリウスサウンドを聞かせてくれたギブソンによる79年の演奏。
 速めのテンポで激しい情熱を一気に吹き上げさせた演奏だ。確かにオケの実力を感じてしまう瞬間があるもの、指揮者共々全身全霊を込めた、いや命がけと言ってもいいくらいの音楽が繰り広げられる。特にここぞという時における金管の咆吼が力強く鮮烈で、曲のツボに見事はまったものとなっている。また終楽章のティンパニも重々しくかつ凶暴で、ここの箇所が戦争を表現していることを良く理解していて、けっしてきれい所では済まさない所も非常によい。
 少し残念なのはアンダンテの部分がやや荒く感じてしまったことだ。しかし終楽章に至って描き出される昂揚感がぐっと胸に迫ってくる演奏だ。
 それにしても彼のニールセンは4番と5番しか残されていないのだろうか? ぜひともこの人による他のナンバーを聞いてみたいと思った。


グロンダール/デンマーク国立放送交響楽団(1951年) < DUTTON CDCLP 4001 >海外盤
お薦め度 ★★★★★

 彼はデンマークの指揮者で1886年に生まれ1960年に没した。原語ではGrφndahlと書く。北欧音楽入門(大束省三著・音楽之友社刊)に感謝。
 モノラル録音だが非常に音が良く、聞くのにはまったく苦にならない。
 この時代のニールセン演奏に共通する、速いテンポで疾走する感は薄く、中庸的なテンポで進められる。派手さはないもの完全にこの曲を手中に入れた堅実で確実な演奏だ。さらにニールセン独特の広々とした音の響きを大きなスケールで描き出していて、まさにニールセンの交響曲を聞く喜びを充分に感じさせてくれる。
 構成が複雑なこの曲をこれだけ整然とさせ、かつ大きな広がりを持って聞かせてくれる演奏は他にない。誠に素晴らしい。
 この指揮者の演奏はラジオ放送用の録音しか残されていないが、それでもこのようなすばらしい演奏を残してくれていたことに感謝したい。


《 さ行 》

サラステ/フィンランド放送交響楽団(1997年) < FINLANDIA WPCS-6304 > & < FINLANDIA 8573-81966-2 >海外盤
お薦め度 ★★★☆☆

 ユッカ=ペッカ・サラステがフィンランド放送交響楽団と97年に録音した演奏。ULTIMAと題された2枚組の企画ものがあるがまったく同じ演奏。指揮者名がクレジットされていないので注意すること。
 このコンビらしく若々しい清涼感に満ちた演奏だ。指揮者の年齢ゆえにまだまだ細部の詰めが甘いところを残しているが、曲全体に生命力が溢れていて聞いていると清々しい気持ちになってくる。
 しかし若さ(勢い)にまかせて突っ走るだけではなく、アンダンテの部分など若干速めのテンポながら充分に悲劇的色合いを出している。そのためフィナーレでのカタストロフィーが表現できている。ただ弦のメロディーラインを強調しているせいか、所々耳慣れない旋律が浮かんできて「ん?」と思うことがある。
 そういう弱点はあるもの、コーダで鳴り渡る響きが晴れ晴れとした気分にさせる演奏だ。


サロネン/スウェーデン放送交響楽団(1985年) < CBS MK42093 >海外盤
お薦め度 ★★☆☆☆

 エサ=ペッカ・サロネンがスウェーデン放送交響楽団と85年に録音した演奏。
 この曲を充分に手中に入れ、余裕を持って演奏している。非常にまろやかでありながら広々とした響きを持ち、聞いていて耳に心地よい。それに加え一気に感情を吹き上がらせる時があり、起伏に乏しい演奏ではない所が好感を持てる。またこの曲が持つ急激な曲想の転換も良くこなされており、その部分が唐突な感じを与えないのがとても良い。
 しかしこの曲で重要なアンダンテ以降から、曲に満ちていた生命力が徐々に失われていき、フィナーレではなにか音を鳴らしているだけという感じがして残念である。
 曲冒頭での張りが最後まで持続すれば、非常に素晴らしいものになっていただろうだけにもったいない。指揮者の若さがもろに出てしまったとしか言いようがない。
 曲細部の練り混みをも合わせ、複雑な構成を持つこの曲をどう最後まで持っていくかが、今後の課題だと言える。


シュミット/ロンドン交響楽団(1974年) < Regis RRC1036 >海外盤
お薦め度 ★★★☆☆

 オーレ・シュミットがロンドン交と74年に収録した演奏。これはステレオで録音された最初の全集で、同レーベルには3枚組の全集(RRC3002)もある。
 まったく奇をてらわない正統的で端正な演奏だ。まろやかな響きをしていながら、金管が思い切りの良い演奏をしているので、こじんまりとまとまった印象を与えない。また確かな構成力で最期まで曲を聞かす所は大変良い。ただハメをはずすような所がないので、余り胸に迫るような箇所はなく、この演奏が持つ他の美点が伝わりにくいのが難点だ。


ションヴァント/デンマーク国立放送交響楽団(1999年) < dacapo 8.224156 >海外盤
お薦め度 ★★★★☆

 新しく編纂されたニールセン全集版に基づいて行われた演奏の録音。今まで使用されていた楽譜は現場が演奏しやすいように手が加えられていたのだったが、今回の版はできるだけニールセンのオリジナルな考えに立ち戻ったものとなっている。
 指揮者は53年生まれのスウェーデン出身。ちなみに原語ではSCHφNWANDTと書く。(φはOに斜め線を引いた文字の代わり)
 このディスクを聞いた所、正直言って従来との違いはほとんど解らなかったが、非常に丁寧な楷書風の演奏だ。
 低音から高音まですべてのパートが注意深く音符をなぞっており、“正しく”楽譜を演奏しようという姿勢が感じられ好ましい。かと言ってこじんまりとしたものではなく、比較的どっしりとしたたたずまいはニールセンが持つスケール感を表していて良い。特に一番最後にあるティンパニの掛け合いからラストにかけては雄大さを感じさせる。ただ演奏に突き抜けた所がないことが残念だ。


シルマー/デンマーク放送交響楽団(1995年) < DECCA 452 486-2 >海外盤
お薦め度 ★★★★☆

 シルマーがデンマーク王立放送交響楽団と95年に録音した演奏。
 細部まで磨き込まれた美しい演奏だ。楽想の出入りが激しいこの曲をすっきりと聞かすどころか楽器間のメロディの受け渡しが心憎いほど練り込まれていて非常に自然だ。また曲想が転換する箇所では必要に応じて絶妙なリタルダントがかけられ、その部分で感じてしまう唐突感が薄らいでいる。それがこの演奏を柔らかく感じる要因となっているのだろう。
 オケの方も首席指揮者(95〜98年)の元、お家芸とも言えるニールセンを自信持ってのびのびと演奏しているのが心地よい。
 ただひとつ言わせてもらえば曲のクライマックスにもう少し大きなヤマが欲しかった。しかしそれを除くと各楽章に付けられた性格を見事に表現していて素晴らしい。
 ちなみにこのCDは国内盤も出ているので買うときはそっちの方が日本語の解説が付いていいと思う。


《 た行 》

ブライデン・トムソン/スコットランド王立管弦楽団(1991年) < CHANDOS CHAN 9163-5 >海外盤
お薦め度 ★★★★☆

 ブライデン・トムソンがスコットランド王立管弦楽団と91年に録音した全集からの1枚。
 前半3楽章は速め、終楽章は逆に遅めのテンポで進められる。ブロムシュテットらの演奏に耳が慣れてしまっていると最初は違和感を感じるかもしれない。しかしそれも聞き進むに連れまったく気にならなくなっていく。それはこの演奏が音楽的に大変充実しているから故である。
 冒頭から中味の詰まった音が鳴り、各楽器の音がよくブレンドされたマイルドな響きはまさしくイギリスの音で、トランペットが華麗に鳴っているのにオケから浮き上がって聞こえることがない。
 曲の最初から張り詰めた生命力があり、フィナーレでは遅めのテンポも合わさって非常に懐の深い雄大さが醸し出されている。(ついでながらティンパニの掛け合いも重い音で迫力充分)
 ただアンダンテの部分だけが若干悲壮感に欠ける演奏なのが無念である。しかしそれ以外は大変素晴らしく、マイルドな味わいに溢れた演奏だ。


《 は行 》

バルビローリ/ハレ交響楽団(1965年) < BBC RADIO Classics CRCB-6097 >
お薦め度 ★★★☆☆

 バルビローリがハレ交響楽団と65年に行ったライブの録音。
 歌う英国紳士らしい非常にフレッシュでかつメロディを存分に歌った演奏だ。ただライブということもあって、オケが上手く演奏できていないところがあり、また録音バランスのせいか金管楽器の鳴りが悪く、マイクが客席の咳をよく拾ってしまっているのが残念である。
 演奏自体は若干遅めのテンポを基調とし、その分じっくりと歌い込んだものだ。第2楽章だけは速めのテンポで流れて行くが、第3楽章でのえぐりの利いた表現が素晴らしい。一瞬の陽光やすぐさまそれを覆い隠してしまう黒雲など、この楽章を初めて聞くような発見がある。何より前楽章から一気呵成に突入する終楽章が大変良く、最後に朗々と歌われる凱歌は聞いてて胸のすく感じがする。
 このコンビによるスタジオ録音が英ニクサにあるそうだが、どこかに売ってないかな?


バーンスタイン/ニューヨークフィルハーモニー管弦楽団(1970年) < SONY SMK 47 597 >海外盤
お薦め度 ★★☆☆☆

 バーンスタインがニューヨークフィルハーモニー管弦楽団と70年に録音した演奏。
 ……批評に困る演奏だ。演奏自体は非常に非常にバーンスタインらしさが溢れ返っているもので、遅いテンポの濃厚な音楽だ。ただこれがニールセンの世界なのか? と聞かれればどう答えて良いのか判らない。
 しかしそれに目をつぶれば、とても聞かすものになっている。オケも最初は音楽に乗り切れていない様子だったが、主題を提示し終わる頃には指揮者の棒によく反応してその機能性を発揮している。そして最後は重いクライマックスがどどーんとやってくる。
 だが一番の問題は指揮者に曲に対する思い入れが少なく、彼独特の曲に身も心も捧げきった陶酔感がないことだ。表面上は重くとも内面的にはあっさりした演奏だ。
 バーンスタインはもう振る気がなかっただろうが、晩年の彼ならどんな表現になっていただろうか興味はある。


ブロムシュテット/デンマーク放送交響楽団(1974年) < EMI TOCE-9783〜90 >
お薦め度 ★★★★☆

 ブロムシュテットがデンマーク放送交響楽団と74年に録音した彼最初のニールセン全集からの一枚。
 サンフランシスコ交響楽団との2度目の全集が高い評価を与えられているが、この演奏もそれに劣らないものだ。確かにオケの技術的な高さ、音色の美しさ、造形の端正さ、を比べれば2度目の方に軍配が上がるが、無機質なアメリカのオケとは違った暖かい(田舎臭い)サウンド、指揮者のこの演奏にかける意気込みなどが感じられこちらの方が好ましい面もある。
 特に激しい情熱で一気呵成に進められる音楽は若々しく、これに応えるオーケストラもこの自国の誇る作曲家の曲を完全に手中に収めていて隅々にまで生命力を漲らせている。一方第3楽章ではじっくりと音楽が進められ、この楽章の持つ悲劇的色合いを充分に出していると言える。まあ荒削りなところがないと言えば嘘になるが。
 それでもこの思い切りの良い演奏は2度目の全集が出た後もその価値は色褪せていないと思う。


ブロムシュテット/ベルリンフィルハーモニー管弦楽団(1978年) < FKM FKM-CDR-188 >海賊盤
お薦め度 ★★☆☆☆

 78年12月16日にフィルハーモニーホールで行われた演奏。海賊盤なので当然ライブ。音質は並。
 まず最初に感じるのは、この曲をやっと音にしているかのようにあくせくしているベルリンフィルの姿だ。これなら10数年前にTVで聞いたN響の方が上手いと思える。しかし終楽章部での2回目のティンパニ乱打が過ぎると音楽が大きく盛り上がっていくのはさすがだと思わなくはない。
 一方ブロムシュテットは曲が始まってすぐではデンマーク放響盤よりもかなり頻繁にテンポをゆらしているが、オケが追いて来れないのを感じたのか、曲が進むにつれあまりテンポを動かさなくなっていく。
 しかしそれ以前に音楽が上っ面だけで流れていき、なにも心には迫ってこない演奏だ。


ブロムシュテット/サンフランシスコ交響楽団(1987年) < LONDON F32L-20251 >
お薦め度 ★★★★☆ 《 For Beginner!

 ブロムシュテットがサンフランシスコシンフォニーと87年に録音した彼2度目の全集からの1枚。
 たくさんの音がゴチャゴチャと鳴っている印象を与えるニールセンの音楽だが、この演奏はオケの合奏力の高さに支えられて、その音構造を驚くほどクリアーに聞かせてくれる。また曲の隅々まで完全に手中に収めていて、安定した構成感のある演奏は誠に素晴らしく、聞いていて胸のすくような気分になる。これはニールセンの音楽にまったく馴染みがない人にもその魅力を充分に伝えることができるもので、ニールセン初心者にもいの一番に推薦できる。当分の間この曲のスタンダートな演奏としてその地位を占めるべきディスクだ。
 ただこの曲にわざわざ付けられた“不滅”と言うタイトルに込められた作曲者の想いが伝わってくる演奏ではない。悪く言えばアクロバティックな演奏だ。しかしこれ程までのレベルを聞かせてくれる演奏はそうはなく、高い評価を得られるのは当然の結果だろう。
 開放感に溢れスカッとする演奏を求めるのならこのブロムシュテット盤を、やや重くてコクのある演奏を求めるのならロジェストヴェンスキー盤をお薦めする。


ブロムシュテット/NHK放送交響楽団(1988年) < キング KICC-3014 >
お薦め度 ★★★★☆

 ブロムシュテットがNHKホールでN響と88年10月7日に行った演奏会の模様。私にとってニールセンの魅力を初めて教えてくれた思い出深い演奏のCD化。
 さすがにサンフランシスコ交響とのレコーディングを済ませた後なだけに安定しきった棒を聞かせ、N響も確かな技術でそれに応えている。サンフランシスコ盤との違いはそのままオケの違いと言え、精密なアンサンブルとエッジの立った音のサンフランシスコ盤に対してまろやかで広さを感じさせるN響盤となっている。ただ最期にパッションの炸裂があればさらに良かったのだが、それはこのコンビの限界かもしれない。


ベルグルンド/デンマーク王立管弦楽団(1988年) < RCA 74321 20292 2 >海外盤
お薦め度 ★★★☆☆

 ベルグルンドがデンマーク王立管弦楽団と88年に録音した全集からの1枚。
 シベリウスでは天下一品の冴えを見せるベルグルンドだが、ニールセンでも同様に速いテンポで一気呵成に聞かす切れの良い演奏だ。音符のひとつひとつまでに良く神経が行き届き、フレッシュな響きをもってこの音の出入りが激しい音楽をすっきりと聞かせてくれる。またオケの方も素晴らしい集中力で自国の作曲家の音楽を演奏している。
 第1楽章などはもう少しゆっくりやって欲しいと思う位ややせわしない所があるが、特筆すべきは第3楽章に当たるアンダンテの部分で、じっくりと歌い込まれこの部分の持つ悲壮感が充分に表現されたものになっている。
 北欧音楽の持つ冴えた響きとクセのない演奏は非常にスタンダートなもので、万人にお勧めできるディスクとなっている。


ボストック/ロイヤル・リバプールフィルハーモニア管弦楽団(2000年) < CLASSICO CLASSCD 298(3) >
お薦め度 ★★★☆☆

 最近新しく編纂(へんさん)された楽譜を使って録音された演奏。
 曲の出だしこそもうひとつ覇気のない演奏で先行きを心配したが、第1楽章も真ん中をすぎる頃から、演奏に次第に勢いが出てきてひと安心する。しかしその勢いの割には爆発力に欠け、第3楽章や第4楽章の盛り上がりにもう一つカタルシスがあっても良いのではないかと思った。
 とは言っても全体の構成も割としっかりしていて、音の整理などもきちんと出来ているので、新全集を録音したものの中ではもっともお薦めできるCDだ。


《 ま行 》

マルティノン/シカゴ交響楽団(1966年) < NORDIC MUSIC 74321 21296 2 >海外盤
お薦め度 ★★★☆☆

 マルティノンがシカゴ交響楽団と66年に録音した演奏。レコードを発売するために録音された初めての演奏だったと思う。
 アメリカにおける北欧音楽の積極的な紹介者であったマルティノンらしく、ニールセンと同時代を生きたデンマーク人指揮者と同じような解釈を見せる。速いテンポを基本として音を短く切り、曲想を引きずらずに演奏する。ただ本場物と違って、リタルダントをかけてロマン的な解釈をする箇所が所々見受けられるのが彼らしい。
 特に素晴らしいのが終楽章で、それまで突っ走っていた感があった演奏が徐々にテンポが落ちていき、おおらかに歌い上げて情熱的かつ劇的に曲を締めくくっている。
 ただ終楽章までの1〜3楽章でやや音楽的な呼吸が浅いのがいただけない。しかしその欠点も終楽章が帳消しにしてくれる演奏だ。


メニュヒム/ロイヤルフィルハーモニー管弦楽団(1988,89年) < SIMAX PSC 1144 >海外盤 & < Virgin 7243 5 61136 2 6 >海外盤
お薦め度 ★★★☆☆

 メニュヒムがロイヤルフィルハーモニー管弦楽団と88年から翌年にかけて録音した演奏。
 落ち着いたテンポで非常に丁寧に演奏されている。どのフレージングをとってもとても柔らかくまた穏やかに奏でられていて、聞いていると安らぎに心が満たされる。これは中間の2,3楽章に強く表れていて、ずっと耳を傾けていたいような気にさせる。
 しかしその分両端楽章にある激情感などが希薄であり、その点がニールセンのウリのひとつなだけに残念である。特にコーダで急に速まるテンポが今までの穏やかな雰囲気から遊離してしまって違和感を感じてしまう。
 また録音のせいか音に生々しさがないことも上のような印象を持つ原因になっていると思われる。ちなみに両方ともちょっと奥に引っ込んだような音像は同じ。ただ、< SIMAX PSC 1144 >の方がほんの少しだけ金管がパリッとしている。


《 や行 》

ヤルヴィ/エーテボリ交響楽団(1990年9月) < BIS BIS-CD-614/616 >海外盤
お薦め度 ★★★★★

 ヤルヴィがエーテボリ交響楽団と90年の9月8,9日に録音した演奏。BISでのチョン・ミュンフンの全集が中途で頓挫してしまったため、その穴を埋める目的でこの曲と6番がヤルヴィの手によって録音された。グラモフォンに録音された演奏とはとりあえず別のものです。
 レコード業界には、ひとつの曲を発売したら何年間は他レーベルから同曲は発売しない、という不文律があったはずだったけど、どうなったのかな? (まあBISはグラモフォンと関係があるみたいだけど)
 録音時期があまりに近いせいかグラモフォン盤と比べて基本的な解釈はまったく同じと言ってもいい。重量感がありながら躍動感があり、雄大なコーダは聞いていて胸の中に力が湧き上がってくるようで大変充実する。
 厳密に演奏時間を計ってみると当ディスクの方が第1,3楽章に相当する部分が短く、第2,4楽章が長い。また全体ではグラモフォン盤より長いものになっている。しかし聴いた印象ではこの演奏の方が躍動感に満ちて音楽に疾走感がある。その結果クライマックスでの昂揚感はこちらの方がより強いものとなっている。
 一方録音自体はグラモフォンのものと比べるとほんの少し音が軽い感じがするが、これは録音(または編集)の違いだろう。ただこちらの方がシャキッとした音がしている。
 他人の全集の補完という、普通なら乗り気のしない仕事にこんな良い演奏を残すとはさすがヤルヴィだと感心した。


ヤルヴィ/エーテボリ交響楽団(1990年10月) < GRAMMOPHON 437 507-2 >海外盤
お薦め度 ★★★★☆

 北欧ものと言えばネーメ・ヤルヴィだが、その彼がエーテボリ( Gothenburg )交響楽団と90年の10月に録音した全集からの1枚。同コンビでBISに録音したディスクもあるが、これはグラモフォンに録音したもの。
 速いテンポを基調としているが先走ったところはまったくなく、確信を持ってじっくりと進められる。
 どっしりとした音でありながら引きずるところがなく躍動感に満ちた演奏だ。はらわたに沁みる重く深い音を聞かせるティンパニが非常に良い。第3楽章に当たるアンダンテの後半では壮大な響きを引き出し、フィナーレでは悲劇的な空気が始終支配する。この終楽章での重さは最後の最後に至って初めて克服され勝利の凱歌を揚げる。ここで得られる充足感は雄大なスケール感を伴い大変素晴らしい。
 ただ一方で第2楽章に当たるアレグレットではもう少しゆっくりやってこの部分が持つ牧歌的な雰囲気を描いて欲しかった。


《 ら行 》

ラトル/バーミンガム市交響楽団(1984年) < EMI TOCE-9712 >
お薦め度 ★★★☆☆

 ラトルがバーミンガム市交響楽団と84年に録音した演奏。
 ラトルらしいはつらつとした演奏だ。はっとするようなリズム感やオケを存分に鳴らし切っているところが心地よい。また曲の急所での盛り上げ方もなかなか堂に入っている。
 ただ曲に対する共感度が足りないのか、聞いていてタレてくるところがある。第1楽章の展開部や第3楽章などがそうで、特に第3楽章に込められている悲壮感が伝わってこないのが残念だ。
 一方、第2楽章の牧歌的な穏やかさや終楽章の劇的な表情付けは見事である。まあ最後はやり過ぎかなと思えなくもないが。
 それでもラトルの魅力は充分に出ている演奏だ。


リーパー/アイルランド王立交響楽団(1992年) < NAXOS 8.550543 >海外盤
お薦め度 ★☆☆☆☆

 リーパーがアイルランド王立交響楽団と92年に録音した全集からの1枚。
 さて、シベリウスの5番では大いにガッカリとさせてくれたリーパーだが、今回は破綻なく最後まで聞けるものとなっている。しかし録音のせいかオケの技術不足のせいかは判らないが、ナヨナヨとした物腰の音楽を感じさせてしまう。最初は調子の出ていないオケの方も第1楽章の再現部当たりから興に乗りだしてはいるが、どうもすっきりとしない。
 一様、各部分が持つ性格はきちんと描けているのだが、心に迫ってくることが全くなく退屈な演奏だ。指揮者には「お前はこの曲をちゃんと解っているのか?」と問いたい。(少なくともオケの方は解っていない。しかしそれを解らせるのが指揮者の仕事)
 ちょっとだけ誉めておくと、アンダンテの後半に盛り上がっている部分があると言うくらいか。
 安いからと言って、ニールセンを初めて聞く人がこのディスクを買ってしまったら、間違いなくもう二度とニールセンを聞くことはないだろう。NAXOSの罪は大きい。


ロジェストヴェンスキー/ストックホルム王立フィルハーモニー管弦楽団(1992年) < CHANDOS CHAN 7094(3) >海外盤
お薦め度 ★★★★★

 ロジェストヴェンスキーが92年にストックホルムフィルと録音した演奏のひとつ。ロジェストヴェンスキーと言えば鋭角的な音を出し、曲に対する鋭い解釈(時としてそれが彼独特のエグイものになることがあるが)をする指揮者だが、最近年をとったせいか演奏にとんがった所が少なくなりまろやかさを出すようになった。
 この演奏は彼従来のアクの強さが大きく後退したもので枯れたと言っても良いくらいだ。テンポを遅くとり、この曲の持つ込み入った構造を丹念に描き出している。そしてオケも多少のアラが見受けられるもの、この指揮者の棒に食いついていこうとしているのが好感を持つ。
 ここで強調しておきたいのはこの曲に対する読みの深さである。私はかつてニールセンの4番はキャッチーなメロディとティンパニの派手な演出で有名になっているに過ぎない曲だと思っていて、同じ作曲家の5番と比べて遙かに格が落ちるものだと考えていた。しかしそれをこの演奏がものの見事に覆してくれた。これを聞いて初めてニールセンがこの曲に込めた「どんなに対立しようと最後には必ず手を取り合うようになれる」と言う祈りにも似た想いを感じ、胸の裡に熱いものがこみ上げてきた。見た目の派手さに気を取られてはいけなかったのだ。
 ただ他の演奏から聞ける鮮烈さに欠けているのでインパクトはないが、聞き込むにつれて味が出るスルメのような演奏と言える。


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