朝比奈さんが亡くなって以来29日の演奏となっていた年末の第九ですが、今年は30日の開催となりました。その結果、関西では一番最後の第九となったわけで、一昨日の佐渡さんに続いてフェスティバルホールへと足を運びました。
今日の指揮者は尾高忠明さんです。4年近く前に大阪フィルの定期で聴いて以来3回目となります。
20年くらい前は“尾高”と言うと作曲家の故尾高尚忠氏の方が有名で、忠明さんは“尚忠氏の息子”と紹介されていましたが、現在では札幌響の音楽監督をはじめ、英国でも活躍しており、先のような紹介のされ方を聞くことはほとんどなくなりました。
私自身はと言うと01年、02年に聴いた印象が強く、かっちりとした構成を持ち、響きは繊細だけど少しモヤモヤしているというイメージでした。正直言うとそれほど大きな期待はしていませんでした。
で実際に聴いてみて、なにより驚いたのは速いテンポでぐいぐいと曲を進めていく推進力で、オケも低弦をしっかりと鳴らし、重い音色で非常に充実していたことです。また特別珍しいことをしていないにもかかわらず、その構成の見通しのよさで、まったく飽きることなく最後まで演奏しきっていました。また小節頭の強拍をくっきりとつけることで、ただ速いだけでない背筋のしゃんとしたリズム感が出ていたことを特筆したいと思います。
劇的に盛り上がることはありませんが、たくましい推進力と構成力の見事さで非常に満足のいくクライマックスを描いていました。
この演奏でも第2楽章の後半リピートをしていましたが、今年聴いた4回の第九では一昨日の佐渡&センチュリー以外はすべて実行していたのには驚きでした。少し前までは朝比奈さんぐらいしか実行する人がいなくて、「私がしなくては誰も(リピートを実行)しなくなる」と言っていた状況とは雲泥の差です。
褒めてばかりだと何なので、苦言を呈すると、第1はホルン。下野さんの時にも書きましたが、どうして第3楽章のソロの時、あんなにドキドキしなければならないのでしょう? 別にホルンに恋した記憶はないので、大阪フィルは早くホルンパートを何とかしてください。お願いします。
次はビオラです。ポジション的に鳴らしにくいのは解りますが、今日に限ってはもう少し鳴らして欲しいと思いました。
最後はヴァイオリンの後ろのプルトです。こちらはもっと頑張って鳴らして欲しいものです。弦が分厚く鳴るかどうかは後ろのプルトにかかっています。「6プルトも5プルトも一緒だな」と言われたら自分達の存在意義がなくなることに早く気付いて欲しいと思いました。折角、関西では唯一の倍管で第九を演奏するオケなのですから、迫力で圧倒しなくては意味がありません。
しかし客演主席コンサートマスターのあの熱意に溢れる演奏スタイルは今までの大阪フィルにはなかったものですので、彼の姿勢がじっくりとオケ全体に浸透していくことを期待します。
声楽関係に言及すると、合唱団はさすが長年この曲を歌ってきただけあって安定感が抜群で、コーラスのバランスも良かったのでしたが、今年は声量が全体的に不足していたと感じました。
独唱陣は男声を中心に非常に素晴らしく、それぞれの個性をはっきりと出しながら、カルテットとしてのバランスは崩していないあたり聴いてて感心しました。
また今回は曲の始めから独唱を入れ、合唱の前に座らせましたが、個人的にはこれが一番しっくり来ます。(やっぱり曲を最初から聴いているからこそ「こんな音ではなく、共に歌おう!」の呼び掛けが利いてくるのだと思う)
会場を包む拍手の中、オケが解散すると舞台が暗転し恒例の「蛍の光」が始まるわけですが、今年はなぜか舞台に残されている椅子が少し気に掛かりました。(いつもはピットの中に全部入れたり、舞台端に片付けていたような気がするのですが)
3番がハミングで歌われ、ペンライトが順次消されていくと緞帳が降ろされ、05年の音楽も幕が降ろされました。
例年は緞帳に「響け、大阪」とか書いてあるのですが、今年はありませんでした。
それにしても尾高さんの変わりっぷりには驚かせられました。私の中でイメージがとても良い意味で180度変わってしまいました。「またこの人の演奏を聴いてみたい」と思わせる、次に繋がる演奏だったと言えます。チャンスを見つけて再び尾高さんの演奏会に行ってみたいと思います。
総じて、尾高さんを心底見直した演奏会でした。
さて次回は、と言いつつも2006年の演奏会のチケットはまだ買っておりません。1年半以上第九の演奏会以外に行っていないような気がしますが、第九は何回聴いても飽きません。来年も第九だけとなるかもしれませんが、素晴らしい音楽に出会えることを願って、演奏会に足を運ぼうと思います。それでは良いお年を。