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大阪フィルハーモニー交響楽団
第25回アルカイック定期演奏会

日時
2005年12月18日(日)午後3:00開演
場所
尼崎アルカイックホール
演奏
大阪フィルハーモニー交響楽団/尼崎市総合文化センター開館30周年記念合唱団
独唱
小西潤子(S)、重松みか(A)、若本明志(T)、田中勉(Br)
指揮
下野竜也
曲目
1.ペルト…カントゥス(ベンジャミン・ブリテンの追悼)
2.ベートーベン…交響曲第9番 ニ長調《合唱》
座席
1階12列41番

はじめに

 この日の中部地方は数十年ぶりとなる積雪のため、交通網にかなりのマヒが生じました。名古屋から新幹線で参上するつもりでしたので、関が原あたりの様子が非常に心配でしたが、なんとか徐行運転で済んでる様子です。ですので、(日曜&大雪だってのに)仕事を午前中で切り上げ、午後1時少し前の新幹線で尼崎へと向かいました。
 白銀の世界を静々と走り抜けるのぞみ号、なかなかの風情でした。
 それにしても名古屋から2時間で大阪に着けるんですね。とすると、5時に出ると7時の開演に……いやいや。

アルカイックホール

 寒風吹きすさぶ中、尼に到着。フリーマーケットが立っていたのを横目で見ながら、長〜い陸橋をずんずん歩いて、ようやくホールに辿り着きました。
 ホール自体は朝比奈さんの古い録音で知っていましたが、実際に足を踏み入れるのは今回が初めてです。
 古臭い印象は全然なく、多目的ホールにしてはかなりの大きさ(フェスよりはずっと小さいですが)でした。音響はデットですが、フェスのようにモコモコとした付帯音が付かない分すっきりしていい感じです。
 ステージはこじんまりとしているもの、奥行きが珍しいくらいたっぷりとあって、コーラスが楽に座ることができるようでした。その代わり、客席のほうは膝がかつかつで、真ん中の席に座るには途中の人にみんな立ってもらわないと行くことが出来ない狭さでした。
 そうそうトイレが細長く、便器がずら〜っと延々並ぶ光景は壮観でした。

ペルト…カントゥス(ベンジャミン・ブリテンの追悼)

 一曲目は私が大好きなペルトのカントゥス(ベンジャミン・ブリテンの追悼)という曲です。この曲は私に、現代の音楽が気味の悪い理解不可能な曲だけでなく、ちゃんと心に訴えかけるものを持っている曲があるってことを教えてくれた掛け替えのない曲です。今日はこの曲を聴きに来たと言っても過言ではありません。

 舞台上に弦楽5部とチューブベルがそろうと、下野さんが登場しました。しかし指揮台には登らず、譜面台に置いてあったマイクを手にすると、静かに語り始めました。
 要約すると、「今回の曲目を決める時にちょうどJR宝塚線の脱線事故が起こり、その追悼の意味で祈りに満ちたこの曲を選んだ。どうか演奏が終わっても拍手は控えて欲しい。」と告げるとタクトが振り下ろされました。

 曲自体を説明すると、編成はヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、鐘。ただし弦はそれぞれが二分されています。
 調性はイ短調、4分の6拍子。pppの鐘に導かれて、ラソファミレドシラの音階をサイクルとして、2分音符+4分音符のリズムで下降していくのですが、楽器が大きくなるに従って順に音価が倍になっていきます。また曲が進むに連れてppp→fffと徐々に音も大きくなります。
 それぞれのパートはサイクルが終わるとひとつの音をずっと伸ばし続け、最後にコントラバスのサイクルが終わると、全楽器の音がピタッと止まり、鐘の余韻だけが静かに漂い曲が終わります。
 仕掛けは簡単ですが、何とも言えない静謐さに溢れた名曲だと私は思います。
 CDはネーメ・ヤルヴィの演奏がBISから発売されているのが良い演奏なので、お薦めです。

 演奏自体と言うと、弦の音色はさすがに良かったですが、fffでの頂点で下野さんが強くタクトを振り下ろしたのにオケの反応は今ひとつで、余りにも淡々としすぎていた感じを受けましたが、最後の鐘の音が完全に消えるまで、みんな静かに聴いていたので、この曲の心はきちんと伝わったのではないかと思います。
 やがて沈黙のまま下野さんがステージを後にすると、第9に備えて、オケとコーラスの面々が入場してきました。

ベートーベン…交響曲第9番 ニ長調《合唱》

 続いて演奏された、第9交響曲ですが、聴いた感じだとベーレンライター版かな? と思いました。
 速いテンポでシャキシャキと進んでいく演奏で、曲の最後まで一気呵成に進んでいく感じを受けました。
 印象に残ったこととして、楽譜にとても忠実に演奏していたことがあげます。例として丸型のアクセントと楔型のアクセントに違いを出そうとして微妙に強弱の差を付けていたり、第2楽章の最後の音にfを付けずに演奏していました。また第2楽章のリピートを忠実に実行していたのには嬉しかったです。何よりビックリしたのは第4楽章コーダのプレスティッシモ直前で慣例なら大きくテンポを落とす所を、楽譜どおりの4分音符=60で突っ走ったのには衝撃でした。
 ただ趣旨が徹底されておらず、アクセントの違いなどがぼやけてしまう所があったのが残念な所です。またフィナーレコーダであれだけの冒険をするなら、プレスティッシモも全音符=88?の爆速でイッちゃって欲しかったと思わなくもありません。
 余談ですが第2楽章の時、下野さんが両手を顔の横で輪を書くように指揮していた姿を見て、幼稚園児のお遊戯を連想してしまい、思わず笑いそうになったのは、君と僕だけの内緒だ。

 声楽その他について言えば、コーラスはもうちょっと練習をして欲しかった。まずピッチが非常に不安定でしたし、簡単な所はとても威勢がいいのに、難しい箇所になると急に発声が怪しくなってました。まあ公募で集めたコーラスのようですから仕方ないと言っちゃあそれまでですが、お金を出して聴く身にしたら給ったものではないですよね。
 ついで独唱。ソプラノが明らかに高音で声が出ていませんでした。声量はあったので、残念です。逆にアルトは声量が不足していて、唯でさえ埋没しやすいのに、良く聴き取れませんでした。男声についてはとりわけありませんが、やや歌い方が乱暴になる瞬間があり、その点は気になりました。
 あとホルンが第3楽章の例の所でまた音をひっくり返し、加えてタイミングが遅れたのを取り戻そうとしてあたふたするという醜態を見せてくれましたが、大阪フィルのホルンは何か特殊なホルンでも使用しているのでしょうか? 色々な第9を聴いてきましたが、ここで失敗するのは大阪フィルだけです。バルブを使うと音色が変わるので、なるべくリードで音程を変えたい気持ちは解りますが、それにテクニックがついて来なければお話になりません。

おわりに

 今日のお客さんは普段コンサートに来ない人が多かったようで、各楽章が終わる後に拍手が起こっていました。(別に悪いことではありませんが)
 演奏が終わり、合唱団が引き上げる際にも拍手が起こりましたから、その意味では非常にアットホームな演奏会だったのではないでしょうか。

 帰りの新幹線で岐阜県を抜けるとき更に雪が酷くなっていて、少々不安になりましたが、闇夜に広がる白銀の世界を眺めていると次第に平穏な気持ちが戻って来ました。

 総じて、雪のように真っ白な心で聴きたかった演奏会でした。

 さて次回は、シンフォニーホールでの佐渡さん&大阪センチュリーによる第9です。
 結果的に今年唯一のシンフォニーホールでの演奏会となりましたが、楽しんで行って来ました。


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