去年まで「21世紀への第9」と銘打ってやっていました佐渡&センチュリーの第9ですが、今年は「21世紀の第9」とほんの少し名称を変えて存続となりました。関西に佐渡さんが安定して登場するのはこの演奏会と大阪城ホールでの「一万人の第9」以外ないので、存続してくれたことは非常に喜ばしいことでした。
指揮棒を持たずに登場した去年と違い、今年はしっかり指揮棒を持っての演奏となりました。
佐渡さんの激しいアクションによる指揮ぶりに、センチュリーの面々が渾身の反応を見せます。普段クールな彼らが、これだけの熱演をすることは珍しく、まさに佐渡効果と言えるでしょう。
第1楽章と第2楽章では心持ち速めのテンポが採られて、中身の締まった音楽となっていました。でも、始終クライマックスのような――言い方を変えれば怒鳴りっぱなしの展開にやや物足りなさを感じたのも事実です。
ただ先も書きましたが、内容は身の詰まったものだったので、表現の緩急が柔軟についたのならもっと良いものになったと思います。
しかし、第3楽章に入ると我が耳を疑いました。非常にゆったりとしたテンポの中、噛みしめるように各旋律線を歌い込んで行くのです。どっしりと低い重心でいながら決してうるさくなく、しみじみと心に染み込んでくるのです。
こんな佐渡さん聞いたことがない!
これまでの佐渡裕の演奏でパッションの爆発するものなら何回も聞きましたが、ゆっくりとした音楽でこれほど心が震える演奏はありませんでした。この楽章は間違いなく今日の白眉でした。
第4楽章に入っても第3楽章の好調さをそのまま持続し、前楽章の主題を否定しながら歓喜の歌が姿を現してそれが次第に大きくなっていく所などは非常に感動的で素晴らしかったです。
合唱が参加しても変にお祭り騒ぎにはならず、じっくりと音楽が進められていきます。その合唱陣ですが、出来は今まででもっとも良く、大変素晴らしいものでした。特に例年弱く感じる二重フーガの部分が今年はしっかりとしたフーガだったことがそれを象徴していると思います。
ただ少し心残りなのは、私が佐渡さんに期待する熱狂的な情熱の炸裂が押さえられていたと感じたことでした。しかしこれは構成をガチッと締め固めたことの反作用かもしれません。(座席の位置も関係しているかもしれませんが)
とは言っても、大きなスケールをもって最後まで演奏に引きずり込ます手腕は健在で、見事なものでした。
演奏が終わると同時に爆発してうねるような拍手と歓声が湧き起こりました。佐渡さんが汗だらけの笑顔でそれに応えます。
演奏中にタキシードのお腹のボタンを飛ばしたらしく、演奏後にオケの人が拾って手渡してました。
「え? なに? ボタン? ああ、これが取れちゃったのかー」
と言う表情の佐渡さんに暖かい笑みが会場からこぼれました。
例によって佐渡さんが客席にバイバイとやって、この演奏会も幕を降ろしました。
兎にも角にも第3楽章とフィナーレの冒頭です。予想以上の収穫でした。新たな佐渡裕を見た気がして、とても嬉しかったです。
それにしても佐渡さん、少し痩せました?
総じて、佐渡さんらしくない感動を受けた演奏会でした。
さて次回は次の日に行われた若杉&大フィルの第9です。
私にとって一生忘れられないショッキングな演奏会でした。