玄 関 口 【小説の部屋】 【交響曲の部屋】 【CD菜園s】 【コンサート道中膝栗毛】 【MIDIデータ倉庫】

大阪フィルハーモニー交響楽団
第351回定期演奏会

日時
2001年9月20日(木)午後7:00開演
場所
フェスティバルホール
演奏
大阪フィルハーモニー交響楽団
合唱
特別編成&大阪すみよし少年少女合唱団
独唱
福井敬、菅英三子、勝部太、岩城拓也、田中勉
踊り
武元賀寿子
演出
加藤直
指揮
外山雄三
曲目
レオンカヴァッロ…歌劇「道化師」全曲
座席
Rサイド1階M列3番

前口上

 オペラを始める前に指揮者の外山さんと演出の加藤さんによるプレトークがありました。内容はオペラにおける写実主義とはなんぞや? という話題でしたが、オペラの本筋からどんどん脱線して行って、聞いてるこっちのほうが心配しました。けれど外山さんが「あとはよろしく」と逃げることでなんとか収束したようです。
 この他の話題としては、「こんなプレトークをする予定はなかったが、このオペラは1時間ほどで終わるため『詐欺』だと言われたら困るからやった」 「オペラを真面目にやると1億かかる。けどそんなお金無いので、加藤さんにお願いしたら安くやってくれると思った」 「オペラをやらないオケは柔軟性に欠ける。大フィルもここ2,3年ピットに入って演奏してなかった」などが上がってました。

 舞台を見るとオケはステージの左の方へ集められ、右の奥には合唱用の台が置かれ、その前には劇中劇で使われる舞台が置かれていました。
 大フィルのメンバーが各自持ち場に着き、譜面台のライトを灯すと外山さんが登場し、オペラの開幕となりました。

レオンカヴァッロ…歌劇「道化師」

外山さん&大フィルについて
 序曲から始まりましたが、初っ端から頭を抱えてしまいました。自信なさげな頼りない響きはこれがホントにプロオケなのか甚だ疑問に思うほどでした。
 特にオペラの伴奏を担当していることに自覚があるのか? と疑問に思うほど、指揮者の棒ばかり見て、歌手陣の歌を聞いていない演奏は失望の念を覚えました。
 外山さんも腰をくねらせてオケを歌わせようとしていたのですが、大フィルを掌握するまでには至ってないように感じました。
 同じ演奏会形式で行われたフェスティバル名曲コンサートでの歌劇「カルメン」における牧村さんの冴えに比べるとかなり聞き劣りする内容だったと言わざるを得ません。
 まあ、さすがに緊迫する場面である第2幕では白熱した演奏となりましたが、それ以前があまりにお粗末すぎたので、オケに関しては否定的な感想しか浮かびません。

合唱団について
 村人の役らしく茶・黒系のカジュアルな服装で登場しましたが、力のある充実したコーラスを聞かせてくれオーケストラの頼りなさを吹き飛ばしてくれました。特に男声陣の声の張りが素晴らしく、コーラスを分厚く幅広い響きにしてくれていました。
 さらに特筆したいのは農民の役でソロを担当した二人(柏原保典・周江平)で、彼らの気合いが入った歌唱は思わずその場で拍手を送りそうになりました。
 また演出を担当した加藤さんの趣向なのか、合唱団が登場するときはほとんどダッシュでしたが、あれほどの人数が一糸乱れず素早く整列するのにはかなりの練習をこなしたと思われます。これのおかげでオペラ全体の進行がピシッと引き締められていました。
 ただ私の座っている席から見ると「パリアッチョ」と書かれた幕(?)でアルトのパートがすっぽり隠れていたせいか、このパートだけが全体から見るとやや弱々しく聞こえてしまいました。

独唱陣について
 まずプロローグを歌ったトニオ(醜男)役の勝部さんですが、ひょうひょうとした演技が狂言回しの役所をきっちりと押さえていました。特に前奏曲と一体になった「前口上」のアリアでは幅広い音域をゆったりと聞かせ、ブラボーをもらっていました。
 ネッダ(ヒロイン)役の菅さんですが、演出上ひどく動きを押さえられた演技をしているように感じました。それでもちょっとした仕草でうら若き娘さんを表現するあたりさすがでした。
 シルヴィオ(色男)役の田中さんですが、最初は印象の薄い感じだったのですが、第1幕第3景のネッダとの愛の二重唱は菅さん共々熱の入った演技で、会場から喝采を受けていました。
 ペッペ役の岩城さんですが……、この役なんのためにあるんだろ? 一応第2幕での劇中劇では間男の役を演じていましたけど。感想も特になし。
 それよりも何よりも主人公のカニオ(ネッダの旦那、道化師)役の福井さんですが、これが素晴らしかった。第1幕最後の「衣装をつけろ」などこの日最高の聞き所で、ピーンと張りつめて会場中に響きわたる歌声が大変素晴らしかった。またこのアリオーソでの胸から絞り出される哀しみや、劇中劇での道化師らしい軽妙さや、最後のシーンでの狂気などその演技力にも感心しました。

演出について
 このオペラの演出でもっとも大きな特徴は、二人目のネッダと呼ばれるダンサーが登場したことです。
 こういう物言わぬ新たな登場人物の挿入は、以前なんのオペラかは忘れましたが、ビーチサイドで日光浴をするようなお姉ちゃんを舞台脇に配置した演出が話題になりましたが、手法的にはそれと同じだと言えるでしょう。
 加藤さんによれば、彼女は女性が持つ自由への憧れを表現しているとのことで、私はこのダンサーの一挙一足に注目しました。
 第1幕では妖しいジプシー風の衣装で現れました。手には針金で出来た枝のようなものを持っていましたが、旦那が登場すると舞台の中央へ出てきて動きが大きくなり、愛人のシルヴィオが登場すると手にしていた枝を一人目のネッダに手渡して「パリアッチョ」の幕の後ろに隠れるなど、なるほど確かに女が持つ何かしらの束縛からの解放を望む心を表現しているなと思いました。
 さらにネッダが持っていた枝を旦那が引ったくっていったことや、醜男がネッダを誘惑するとき押し倒したのは二人目のネッダの方だった、など解りにくいが気になる演出がありこれらが第2幕でどう解決されるか興味をそそられました。
 で、休憩なしで始められたその第2幕ではダンサーは不思議な国のアリスのような衣装で登場しました。前の幕場での妖艶な雰囲気とは打って変わった可愛らしい舞踊はこれが同じひとなのかと不思議に思う程の豹変でした。このダンサーの表現力には舌を巻きました。
 それなのにこの第2幕では黒子のような役割になってしまい、前半での意味深さが薄れてしまいました。その点は残念でした。
 しかし最後の場面で旦那がナイフを抜き、刺してしまったのは二人目のネッダ(および道化師の仮面)だったというエンディングは意表を突かれました。これによりカニオが手に入れることが出来ずに殺してしまったのはネッダそのものではなく、女の自由な心だったという解釈を感じ取ることが出来ました。

カーテンコール

 カニオの「道化芝居は、これまでだ!」よりオケが悲劇的な終曲を一気にまくし立ててこのオペラも幕となりましたが、曲が終わるか終わらないかの内にワッと拍手が起こりました。
 一旦舞台裏に引き上げた独唱陣がひとりずつステージに現れると大きな拍手が湧き起こりましたが、カニオを演じた福井さんが登場すると一際大きな拍手で出迎えられました。
 彼らが手を繋ぎ客席に一礼をしますと、再び大きな拍手が起こります。その中でもダンサーの武元さんはバレエ式の膝を床に付けてのお辞儀をしていましたのが目立ちました。
 岩城さんたちが外山さんにこの列に加わるように促しましたが、外山さんはかなり最後までそれを拒んでいました。オケの出来に不満があったからかもしれません。
 またソリスト達が連れだって舞台上手の方に引っ込むときに、武元さんが外山さんに「バイバーイ」と手を振っていた姿がとても可愛らしく会場の微笑みを誘ってました。

おわりに

 総じて、彼女が一番の道化師だった演奏会でした。

 さて次回は、『朝比奈隆の軌跡2001』のラストを飾るブルックナーの交響曲第9番です。
 最近の朝比奈翁は特に緩徐楽章が素晴らしい出来なので、アダージョで終わるこの曲は非常に期待しております。お楽しみに。


コンサート道中膝栗毛の目次に戻る