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ドレステンフィルハーモニー管弦楽団
大阪公演

日時
2000年6月18日(日)午後3:00開演
場所
ザ・シンフォニーホール
演奏
ドレステンフィルハーモニー管弦楽団
指揮
ワルター・ウェラー
曲目
1.ベートーベン…交響曲第6番 へ長調「田園」
2.ブラームス…交響曲第1番 ハ短調
座席
1階P列23番(A席)

ウェラーさんについて

 今日の指揮者であるウェラーさんのことについて少しだけ書かせてもらうと、彼は1939年生まれのウィーンっ子で、親父さんはウィーンフィルの第1Vn奏者でありました。そして自身も14才でウィーンフィルに参加を認められ、21才の時に同オケのコンサートマスターに就任しました。(ちなみに1954年に行ったフルトベングラーの「ワルキューレ」の録音に参加したそうです)
 58年からはウェラー弦楽四重奏団を結成し、世界的なヴァイオリニストとして目覚しい活躍をしていました。
 しかし60年代後半に腕を故障してしまい、惜しまれつつもウィーンフィルのコンマスを辞め、本格的な指揮者への活動を始めました。

 以上のようにウィーン音楽の中で生まれ育った音楽家であり、本人もウィーンの本流であるベートーベン・シューベルト・ブラームスを得意としています。
 今日はその中でもベートーベンとブラームスを取り上げてくれました。伝統の上に立脚した正統的な演奏を期待して会場に足を運びました。

ベートーベン…交響曲第6番 へ長調「田園」

 温かい拍手に迎えられて演奏者が壇上にそろうと、演奏が始められた。
 テンポはゆったりとしたものを基調としているが、キビキビとした音作りがされていた。なによりチェロとコントラバスがたっぷりと鳴り響き、音楽を優しく包み込んでいる。そのため余裕のあるテンポと合わさって、聞いていて実に気分が良く、心地よい田園風景が広がっていった。
 指揮者もオケを煽ることはせず、自発心に任せた音楽を形作っていた。
 それが第4楽章の「嵐」になるとウェラーは初めてオケを力強くドライブし、そしてその勢いを保ったまま終楽章に入った。ここで指揮者は旋律を瑞々しく歌わせ、全曲の頂点を築こうとしたが、オケと意志の疎通が上手く行かなかったのか、それがはまりきらなかった。そのため再現部の所でVnが落ちかけて、大きくリタルダントをかけタイミングを揃える場面があった。
 曲が終わると会場からは熱狂的なものはないもの大きな拍手が起こった。

 結果的にとても良い気分で聞き入ることが出来たもの、この楽章で得られる宇宙にも通じる自然や神への感謝を感じることがなかったのが非常に惜しい気がした。
 この曲は今年の3月に行われた朝比奈&大阪フィルによる演奏会でも聞いたが、枯れきっていてスジしか残っていなかったような演奏でも、本質的な部分だけ(ホントそれだけ)はがっしりと押さえた演奏で「腐っても鯛」と言えるものだった。こういう点ではうちらのお爺ちゃんもたいしたものだと思う。
 ウェラーも前半では非常に素晴らしいものを聞かせてくれただけに今後の更なる充実を期待したい。

ブラームス…交響曲第1番 ハ短調

 後半のブラームスではのっけからウェラーが気合い充分の指揮を繰り広げる。しかし前半のベートーベンではしっかりと音楽を支えていたチェロの鳴りが悪く、そのせいか密に詰まってぎっちりと鳴り響くイメージがあるブラームスの音楽にはやや遠い響きがした。
 といってもこの曲の持つ堅苦しいまでの構成感は堅固に保持しつつ、先の「田園」同様その枠の中で伸びやかに歌おうとしたものであった。
 しかしブラームスの1番以降で聞ける、心に沁み入るメロディーが次々と紡がれていく特徴がこの曲では幾分薄いので、伸びやかに歌ってもあまり効果が上がらず、ブラームスらしいボテッとした中音域の響きが聞かれないことが始終不満に思った演奏だった。

 しかしさすがに終楽章のコーダに突入すると俄然白熱しだし、トロンボーンが鳴り響く頃にはオケもやっと最大限の集中力を発揮。最後は大いに盛り上がって演奏が終了した。
 ショルティーが言っていたが「この曲の終楽章は完璧だから、指揮者はなにもしなくても立派に鳴り響く」の言葉通りで、これはブラームス様々の結果だろう。
 曲が終わると大きな拍手が起こり、しばらくして「ブラボー」の声も掛かった。

アンコールがはまっちゃった

 拍手には熱狂的なものはないもの止むことがなく、指揮者が何度も呼び出されるものだった。そこでウェラーが指揮棒を持って登場すると、こう告げた。「ヴェーバー、オゥベロン、オゥファーチュア」
ウェーバー…歌劇「オベロン」序曲
 ドイツ語の発音だったせいか、会場のほとんどの人が曲名が理解できず一瞬ざわついてしまった。
 しかし演奏の方は非常に素晴らしく、ぎっしりと音が詰まりながら華麗に鳴り響き、しかも力強く推進力溢れるものだった。クライマックスに向かってグイグイと盛り上がっていき非常に引き込まれる演奏だ。文句なしに今日一番の出来だった。

 今度は掛け値なしにワッと盛大な拍手が湧き起こり、演奏に見合ったものが送られる。
 こうなるとアンコールは1曲だけでは済まなくなってくる。
J.シュトラウス2世…ピチカートポルカ
 音楽的な間合いを充分にとった、ゆったりとしたポルカで、弦のピチカートだけで奏でられたこの曲が終わると、再び大きな拍手が起こり、その熱気は収まりそうにもなかった。

ブラームス…ハンガリー舞曲第5番
 速いテンポで一気呵成に突き進み、テンポをほとんど揺らさない演奏だったが、ダイナミックでありかつキレの良い演奏は爽快感溢れるものだった。
 三度大きな拍手が起こり、ステージ上では「ありゃ〜、終わんないよ」という嬉しさと困惑が入り交じった表情を見せる楽員もちらほらと見受けられた。

 指揮者とコンマスが「どうする?」と困り顔で相談すると、「やりましょか」と言った感じで、オケ全員に指示が飛んだ。
ブラームス…ハンガリー舞曲第1番
 楽譜を用意していたかどうかも分からなかったが、5番同様大変楽しめた演奏だった。

ウェラー現象

 四たび大きな拍手が起こりましたが、指揮者が一礼をしてから退場すると、それに続いてオケが素早くステージを後にしました。
 しかし拍手はまだ鳴り止まず、退場していく楽員ひとりひとりに送られていきました。
 するとウェラーさんが一人でステージに現れて答礼してくれました。これには残っていたお客さんも大喜びで、ステージに詰めかけ総立ちで拍手を送っていました。
 朝比奈の御大以外では初めて見る光景です。
 ただお爺ちゃんと違うのは、この時ウェラーさん投げキッスしてくれました(笑)。

 またステージに残って片づけをしていたコントラバスの人達が、出ていくお客さんに「バイバイ」と声をかけてくれた一場面もあり、非常にアットホームな暖かい雰囲気でコンサートの幕が降りました。

おわりに

 ウィーンフィルもムーティや小沢なんかに構ってないで、彼のような指揮者をステージに招けばいいのに。

 総じて、アンコールのレベルで最初からやって欲しかった演奏会でした。

 それにしてもみんな盛り上げすぎ。会場を後にするとき初老の男性が、
「これで大阪の印象も大分よー(良く)してもろたやろ」
 と言っていたが、きっと充分すぎるインパクトを持ってくれたはずだ。

 さて、次回はユタカのシベリウスとレスピーギです。
 ホント言うと忙しくてコンサート行ってる場合じゃないんですけど、ど〜しても聞きに行きたい演奏会です。
 たぶんボロボロのコンディションで行くハメになるでしょうが、それも自業自得です。お楽しみに(何をだ?)。


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