いきなり本題に入ります。
重い鐘の音を思わせる冒頭が非常に軽い音になってしまっている。本人は迫力を出そうとかなり強く弾いているようだったが、その効果は出てはいなかった。ラフマニノフは指が太くて長い人だったと聞くが、これはその本人が弾くために作った曲だ。女性には辛い出だしだと思う。
そういった身体機能的なことはひとまず置いても、今日の演奏には全く満足できなかった。とりわけ大きな原因はソリストに全曲を見渡して構成を形成する能力に欠けていたことだ。
その結果ダラダラとした音型が続き、聞くのがイヤになってきた。ラフマニノフ独特の濃厚なロマンティズムを味わう以前の問題だ。テクニックに不安を感じさせるところがあったのもそれに拍車を掛けていた。
第1幕:情景、ワルツ
第2幕:情景、4羽の白鳥の踊り、パ・ダクション(グラン・アダジオ)
第3幕:ハンガリーの踊り(チャルダッシュ)、スペインの踊り、ナポリの踊り、マズルカ
第4幕:情景、フィナーレ
休憩後は、素晴らしい旋律に溢れた白鳥の湖から抜粋された11曲だが、我々の耳になじみの深い曲は前半に集中している。しかし全曲を見渡して重要なのは、今まで出てきたメロディを統合しひとつにまとめ上げていく第4幕の音楽の方だ。
だが、この日は盛り上がるのが前半に集中していて、後半の方は練り混みの足りない凡庸な演奏になっていた。またメロディの歌い方が平坦で味がなく、この曲が元来ステップ数などを緻密に計算したバレエ曲だということを全く感じさせなかった。舞曲だということを忘れているのだろうか。
以上挙げた欠点はもろに本名の欠点に継がっている。旋律線の歌い廻しやリズムなど細かい所に全く目が届かず、かと言って曲を全体の構成から見渡す能力にも現在は乏しい。ただ何となく曲の最後を盛り上げる才能にたけているため、構成のがっしりとした曲では妙にはまることがあるから客が勘違いして喝采を送ってしまう。交響曲と違い今日のような組曲は(抜粋ものなら特に)指揮者の音楽への構成力を問われてしまう。
ケチはつけたが、前半の白熱した盛り上がりは本物で、最初の数曲は満足のいくものであっただけに後半のグレードダウンが惜しまれて仕方ない。
一応、演奏が終わると大きな拍手が起こり、演奏会はひとまず成功したようには見えた。
大きな拍手が続いていましたが、本名さんが
「今日はオケが2回も一生懸命にやってくれて、大変疲れているのでアンコールはなしです」
と言って解散となりました。……理由はそれだけじゃないとは思いますが。
総じて、締まりのない演奏会でした。
終演後ロビーに出るとラフマニノフを弾いた中川さんがステージ衣装のまま、お客にあいさつをしていて一緒に写真を撮ったりしていました。さすがミス・インターナショナル西日本代表。
一方ではティンパニ奏者の花石さんがいずみホールでやる打楽器コンサートの前売り券を買ってくれた人にサインをしていました。「頑張って下さい」と声を掛けられると、立ち上がって「ありがとうございます!」と握手を求めていた。なかなかのショウマンシップ。
こういう地道な活動が大切なんだよな、とひとりごちして会場を後にしました。
次の演奏会は大フィルの第341回定期です。若杉さんの運命、竹澤のベルク、共に楽しみな演奏会でした。お楽しみに。