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大阪フィルハーモニー交響楽団
「第9シンフォニーの夕べ」 in’99

日時
1999年12月30日(木)午後7:00開演
場所
フェスティバルホール
演奏
大阪フィルハーモニー交響楽団/大阪フィルハーモニー合唱団
独唱
菅英三子(S)、竹本節子(A)、市原多郎(T)、三原剛(Bs)
指揮
朝比奈隆
曲目
ベートーベン…交響曲第9番ニ長調《合唱》
座席
1階H列L5番(S席)

はじめに

 一年を締めくくるのはやっぱりこの人。ということで行って来ました、今回はどんな第9になるのでしょうか? 正直言うと去年の第9の演奏会は全然満足のいく出来ではなかっただけに、少々不安な気持ちでコンサートに臨みました。

 曲が始まる時にはすでに合唱団、独唱、第4楽章で参加する楽器などが並んでいた。独唱や打楽器を第2楽章の後に入れる演奏が主流だが、私は今日の演奏形態がもっとも正しいものだと考えている。曲を最初から聴いているからこそ「こんな音ではダメだ! みんなで喜びの歌を歌おう!」と言えるのであって、途中からやってきた人にこんなことを言われたくはない。
 この曲は今まで聞いていただけの聴衆に向かって「こっちに来い! 一緒に歌え!」と巻き込んでしまう曲なのだ。
 だから贅沢を言わせてもらえば、終楽章の最後で独唱がカデンツァ風の四重唱を済ますと椅子に座ってしまうのが残念でならない。できたらその後のプレスティッシモもコーラスと一緒に歌って欲しいと思う。

ベートーベン…交響曲第9番ニ長調《合唱》

 神秘的な弦の刻みから第1主題が出現するとき、巌のような厳格さに全身が痺れるように打たれた。その力強さの中に刻まれた彫りの深さは、まったく力みのないものなのに聞き手の心をがっちりと握りしめるものであった。
 テンポは最近の朝比奈の傾向とは少し違い、ゆっくりと進められた。そして内声を存分に鳴らし切っているので、どの旋律も心に深く染み込んで来るものだった。また弦の刻みやティンパニのロール打ちにトレモロは用いず、32分音符できっちりと演奏させていて、がっちりとした堅固感を感じさせた。
 曲の解釈自体は余り劇性を強調しない一大叙事詩のような悠久さを感じさせた。

 第2楽章ではスケルツォ前半を繰り返したあと後半を繰り返し、トリオ後のダ・カーポでは繰り返しをしない演奏だった。97年のCDではダ・カーポ後も前半は繰り返していたのとは対称的だ。
 ここの楽章でも各声部をしっかりと鳴らしているので音の構造が手に取るように解り、繰り返しをきっちりとしているにも関わらず長いとは感じさせなかった。

 なんといっても今日ひとつの頂点とも言えるのがこの第3楽章だ。ゆったりとしたテンポは存分に音楽へと身を浸りきらせてくれた。なにより滋味だが慈しみに溢れたその歌い回しは胸の奥にじわりじわりと染み込んで心をいっぱいに満たしてくれた。穏やかな幸せに包まれた一瞬だった。
 特に第1主題が再現する第3部は白眉で、聞いていて頭の中が真っ白になってしまった。また第5部での2度目のファンファーレが鳴らされた後の部分は沈み込むような悲痛な響きの中でも壮大さが現れ、大変素晴らしかった。

 間髪入れずにアタッカで続けられた終楽章も素晴らしい出来だった。冒頭の低弦によるモノローグ風の楽句から朝比奈にしては珍しいくらい粘るように歌われ、歓喜の主題が初めて出てくるところでは思い切って音量を落とし呟くように始めた。そこから息の長いクレッシェンドを続け、器楽だけによる見事な山場を築き、畳みかけるように荒々しいファンファーレが鳴り響いた。

 声楽に関しても大変素晴らしく、去年感じた独唱陣に対する不満は全くなく、4人とも見事な歌唱を聞かせてくれた。また合唱も素晴らしい出来で、女声部が絶叫することもなく、充実した男声部のおかげで各声部がバランス良く鳴り響いていた。
 そして充分な練習量と経験から実に堂に入った歌となり、どの変奏でも各旋律線を明確に描き、2重フーガなど大変聞き応えがあるものだった。
 朝比奈も合唱団に対してビシビシと指示を出していた。これは去年見られなかった光景だ。
 プレスティッシモの途中で一旦テンポを大きく落とす箇所ではこちらがビックリするほどのリタルダントを見せ、ラストの器楽だけによるプレスティッシモは白熱して火が出るように熱く燃え上がるものだった。
 曲が終わると同時に爆発するような拍手と歓声が湧き起こった。

まとめ

 年末になるとやたらと第9の演奏会が開かれますが、これ程のものを聞かす演奏会はないと思います。非常に感動した佐渡&大阪センチュリーの演奏にしても、内容の深さ・濃さを比べると足下にも及びません。
 技巧的に確かなものや演奏効果華やかな演奏は他にもっとありますが、それが聞いて感動できるものかどうかは全く別なものです。
 この日の演奏は聞いていてはらわたにズンと浸み入ってくる名演でした。

 総じて、壮大で味わい深い演奏会でした。

 さて、2000年最初の演奏会はフェスティバル名曲コンサート第1回のコバケンによるチャイコフスキーと自作の曲です。
 彼大得意のチャイコも魅力たっぷりですが、コバケン自作自演の曲も興味があります。この曲についてはちょっとしたエピソードがありますのでそれも書きたいと思います。お楽しみに。

蛍の光

 去年と比べても熱狂的な会場の拍手に包まれて、御大が何度も呼び出されます。また独唱陣と合唱指揮者も一緒に喝采を受けました。
 オケが解散した後も御大は呼び出されますが、彼が舞台袖に退場すると、ステージの照明が落とされ恒例の「蛍の光」が歌われました。
 ブルーの照明とスモークが焚かれ、合唱団員と合唱指揮者がグリーンのペンライトを持ち静かに歌われました。3番でハミングになるとライトが前から順に消されて行き、会場が再び闇に包まれると緞帳がゆっくりと降ろされました。
 舞台上手に飾り付けられた「今年もありがとうございました。来年もよろしくお願いします。」のレリーフがピンスポットで照らし出されると、いろいろあった1999年も終わりを告げました。
 来年こそ幸せになれますように。


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