ブルックナーの奥の院と呼ばれる5番です。この曲を面白く振れるかどうかで、その指揮者のブルックナーに対する適性が判断できると言えるでしょう。
その5番を朝比奈は非常に得意としていて、シカゴ響との協演や90歳記念演奏会など節目でこの曲を選んでいます。
1973.7.24 L | 大阪フィル | 東京文化会館 | ★★★★★ |
CD | Tokyo-FM | TFMC0005 | |
演奏について
日本においてブルックナーの交響曲が最初に受け入れられた瞬間であり、朝比奈をブルックナーのスペシャリストと決定づけた記念碑的な演奏。宇野功芳氏がことあるごとにレコード化を訴えていたが、契約関係の都合で上手く行かなかった。それが関係者の尽力でついに発売されたのがこの演奏。 何より驚くのがスケールの大きさと全編にわたって流れるたくましい力感で、後年の広がりある響きによるスケール感とは少し違う、中身を凝縮することによって高まったエネルギーを放出するようなスケールの大きさと言える。 テンポはインテンポではなく、各フレーズ間で頻繁に変化しているが、音楽の流れは腰が据わっていて非常に重心が低い。また全体的にテヌート気味で、音符一杯に音を伸ばすため、旋律に滑らかさを感じさせるのが従来の5番像と離れていて面白い。 一番の聴き所は全編に溢れる緊張感と集中力で、終楽章コーダをすべての頂点として登り詰めていく熱狂がある。そしてそのクライマックスでは、倍に増強された金管とそれに全くひけを取らないティンパニの凄まじさがみごとツボにはまり、素晴らしいカタルシスを与えてくれる。 曲が終わった瞬間の狂ったような歓声がこの日の興奮を如実に物語っていると言える。 |
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録音について
低音域の音の粒がつぶれ気味だが、音の鮮度はなかなか良い。奥行きを感じさせることは余りないが、左右の広がりは充分にある。 また楽章間のインターバルや終演後の熱狂的な拍手もすべて収録されてる。 |
1978.1.25 L | 大阪フィル | フェスティバルホール | ★★★ |
LP | ジャン・ジャン | JJ-1600/16 | 全集・限定盤 |
CD | ジャン・ジャン | JJ-008/019 | 全集・限定盤 |
CD | グリーンドア | JJGD-2001/17 | 全集・限定盤 |
演奏について
じっくりと進められるテンポは堂々としており、同全集の8番と比べてテンポの変化は非常に抑えられている。 音符一杯に音を伸ばす朝比奈流の歌い口はこの時点から健在だが、次の音へと滑らかに継いでいくので意外にも流線型のメロディラインとなっている。そのためかゴツゴツとした印象がある第5交響曲が随分となだらかな手触りとなっている。 第2楽章のコーダぐらいからは音楽に力強さが満ち、スケルツォは実に生き生きとしている。ただオケは上手くなく、かなり荒っぽいのがマイナスだ。 終楽章はスケルツォの好調さを受け継いでひたむきに曲を進めていき、コーダへ向かってストレートに盛り上がっていくのが好感を持てる。 |
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録音について
多少ひなびて聞こえるが、これは会場の音響を確実に捉えている結果だろう。 金管などパリッとした音をしていることから判るように音の鮮度は大変良い。また音の広がりと分離の仕方は自然でかつ繊細でかなり良好だ。 |
1980.9.3 L | 東京都交響楽団 | 東京カテドラル教会・聖マリア大聖堂 | ★★★★ |
LP | Victor | SJX1151-9 | 選集・限定盤 |
CD | Victor | VICC-40190/9 | 全集 |
CD | Victor | VICC-60281/91 | 全集 |
演奏について
教会での演奏と言うことでスローテンポを採るのかと思うとそんなことはなく、やや速いと感じるくらいのテンポで進んでいく。しかし音楽の腰が軽くなることはなく、響きは重い。また全体に無駄なところがなくなり、力みが取れた表現となっているが、メロディの歌い方が非常に有機的で生き生きとまたハツラツと歌えている所が非常に良い。 終楽章では大きくテンポが落ちるが、滑るように進むリズムがあり、コーダでは広がりのある雄大なクライマックスが描かれている。 ただオケの方はあちこちで楽器が落ちている所もあり、上手いとは言えない出来となっている。 |
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録音について
残響音の多い会場での録音のせいか、全体的にのっぺりとして広がりに欠け、細部はぼやけ気味で不鮮明だ。ただ弦や金管などのアタックはしっかりと捉えられているので、聴くのが苦痛になるものではけっしてない。 LPの方だと各楽器の存在感が増して、のっぺりとした印象がかなり後退する。 |
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同時収録
LPは“朝比奈隆・ブルックナー交響曲シリーズ”のもの。(詳細は7番の上から4つ目を参照) |
1992.9.2 L | 新日本フィル | サントリーホール | ★★★★★ |
CD | fontec | FOCD9050/5 | 選集 |
CD | fontec | FOCD 9062 | |
演奏について
恰幅の良い堂々たるスケールで音楽が展開する。やや遅めのテンポで進んでいき、旋律のひとつひとつの歌い方がとても生き生きとしており、無駄に響くところはひとつもない。また推進力に満ちたリズムがどんどん曲を進めていくので、第1楽章の冒頭からこちらをぐいぐいとブルックナーの世界に引きずり込んでしまう。音色は重いが、響きの幅は広く、朝比奈にしては粘りのある響きが他の演奏と少し違う。 演奏は第1楽章の最初から気の張った、集中力に溢れたもので、たれる所がまったくない。スケルツォを非常に力強く演奏した後のフィナーレも冒頭から集中力の高いものを聴かせており(普通はもう一度仕切り直しをするようにいったんテンションが下がりがちになる)、楽章後半から頂点に向かってジリジリと登り詰めるような足取りは素晴らしく、コーダの雄大さには思わず息を呑むようなカタルシスが得られるものとなっている。 |
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録音について
やや音の粒が丸いが、音の分離は良く、楽器の位置が良く判る方だ。また音場の広がりも良い方だが、会場の空気感はあまり良いとは言えず、サントリーホールらしさは感じない。 |
1994.6.27 L | 大阪フィル | フェスティバルホール | ★★★ |
CD | Pony Canyon | PCCL-00261 | |
CD | Pony Canyon | PCCL-00400 | 全集 |
CD | Pony Canyon | PCCL-00473 | HDCD |
演奏について
それぞれのメロディの輪郭が非常に鋭く、この交響曲の特徴でもあるゴリゴリとした男性的な硬さが特に際立っている演奏となっている。またオケも荒々しいまでの豪放たる鳴らしっぷりをしていて非常に気持ち良い。 第1楽章冒頭から終楽章のコーダに向かってじっくりと登り詰めていく構成力の確かさは見事なもので、その頂点であるコーダにおける金管のダイナミックさには圧倒されてしまう。 演奏の力強さ、緊密さ、どれを取っても非常に素晴らしい次元のものだと言えるのだが、決め所でのインパクトが弱く、メロディの歌わせ方も何となくあっさりとしているため、余りのめり込んで聴くことの出来ない演奏だ。 |
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録音について
ノーマル盤は各楽器の存在感が際立っており、音のエッジが鋭く、定位もしっかりとしている。フェスティバルホールのステージをオンマイクで録ったときの特徴が顕著に表れている録音だ。 一方、HDCD盤の方はノーマル盤の特徴プラス音像が眼前にグッと迫ってきて臨場感が上がる。また残響がきれいに伸びるようになり、キャニオン全集中HDCD化に最も成功したマスタリングとなっている。 |
1995.4.12 L | 東京交響楽団 | サントリーホール | ★★★★★ |
CD | Pony Canyon | PCCL-00362 | 選集 |
CD | Pony Canyon | PCCL-00516 | 単売・HDCD |
演奏について
全体的に繊細な響きをしており、透明感ある美しい響きをしている。 まず第1楽章が比較的遅いテンポで始められるが、踏みしめるような重いリズムは影を潜め、流れるように進む印象がありながら、音楽は厳かに進められる。しかし展開部の後半からは音楽に起伏が生まれ、フォルテで音がスパッと立ち上がるようになり、テンポが目立たないながらかなり大きく変動するようになる。またこの展開部後半からは速いテンポを主体として進められる。 続く第2楽章は意外なほど速いテンポ(特に第2主題)が採られるが、上っ面だけがただ流れることは全くなく、対位法の積み重ね方が非常に濃厚で中身の詰まったものとなっている。またグイグイと進められる曲の展開と、雄大で広がりのある響きが合わさって大変素晴らしい演奏となっている。 第3楽章も前楽章の流れを受けて、力強い推進力で進められる。特にスケルツォのダイナミックさは心が沸き立つようで非常に良い。 終楽章でもこの長大な楽章を一切の緩みなく演奏し、凝縮するような内容はコーダまで一気呵成に聴かせてしまう。特に楽章後半はテンションが上がり切ってしまったかのような高いボルテージの音楽となるが、コーダで金管が補強されるとさらにもう一段階上のテンションとなってしまうあたりは聴いていて奮い立つような興奮を覚えてしまう。 即興的に感じる部分が多くあるが、全体的なテンションの高さが非常に魅力的な演奏と言える。 |
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録音について
細かい音を繊細に拾っており、少しオン気味のセッティングは左右に良く音像を広げている。ホールトーンもサントリーホールでの録音にしては良く入っている方だが、フォルテッシモで音が固まってしまう傾向がある。また奥行きをもう少し感じさせるものだともっと良かったのにと思わせる。 |
1998.7.16 L | 大阪フィル | フェスティバルホール | CD★★★★ DVD★★ |
CD | 毎日放送 | 番号なし | |
VHS | 毎日放送 | 番号なし | |
DVD | 東芝デジタルフロンティア | PIBC7001 | |
演奏について
90歳の誕生日を記念して開かれた演奏会の模様で、最初CDとVHSで発売され、後にDVDでも発売された。 一番最初のフォルテッシモで縦の線がそろっておらずドキリとする。第1楽章はまだ探り合いながら進行する感じが強い。第1楽章のコーダからやっと本調子になったのか、第2楽章は力みがないながらも音楽が流れるように紡がれて厳かに進められる。 手馴れた感じがする大変安定感ある演奏で、力みが取れていながら非常に練れたアンサンブルに支えられた内容の濃い演奏となっている。 終楽章まで始終冷静に演奏されるが、フィナーレ展開部のフーガにおけるスローテンポには驚かされる。そしてコーダで金管が倍増されると、冷静さはそのままで迫力だけがグンと増強されて(DVDではその迫力を余り感じない)、ガッチリとしたクライマックスを形作っているのがとても良い。 全体的に淡々としているため、インパクトは弱いが、良く聴くととても内容の濃い演奏であることが解るものとなっている。 オケが引き上げた後、一人で喝采を受ける朝比奈の目元が少し潤んでいるのが映像だと見て取れる。 |
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録音について
CDでは低音から腰の据わった芯のある音となっていて、最強音も力強く立ち上がってくる。また音の分離も良く、フェスティバルホールの舞台をイメージさせる臨場感がある。 一方DVDの方はまったくの無修正で、些細なミスもそのまま収録されている。リニアPCMで聞くとさすがに高音のヌケが良く、臨場感が更に上がる。しかし最強音で音がスパッと立ち上がって来ず、ややダイナミックレンジが狭いと思わせるもので、音的には余り愉しくはない。 画像のほうは光量がたっぷりとあり、明るくてなかなか色鮮やかに撮れている。画面の構成はロングとアップが交互に現れるもので、アップ時に少し楽器に寄り過ぎて指しか写っていないことがある。また時々意味のない楽器がアップにあることがあり、少し単純で練り込みが足りない。出来れば指示を出す指揮者とそれに反応する奏者を同時に写すカットが欲しかった。 |
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同時収録
テレビ放送時のオープニングとインタビュー(DVDのみ) |
2000.3.29 L | 東京都交響楽団 | サントリーホール | ★★★ |
CD | fontec | FOCD 9136/7 | |
演奏について
一貫して遅いテンポで進められるが、いつもの男性的な硬質さがだいぶ後退し、晴朗な響きで流線型のフォルムをしている。 第1楽章は割とテンションが高いが、ゴリゴリと演奏しているような感じがないので、全体的に音楽が穏やかに流れていくイメージが強い。これは終楽章のコーダで金管が倍に増えようとも印象は変わらず、もはや演奏スタイルは完成され切っており、ぎっしりと詰まった内容はそのままで、それを自然体で成し遂げてしまった演奏と言える。ただ内容は濃いのだがサラッと流れてしまって心に印象が余り残らないのが残念だ。 |
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録音について
弦よりも管が前面に出てくるが、各楽器の定位がしっかりとしており、分離の状況も充分だ。ただ間接音が多いのか(と言っても長く引きずるものではないが)一聴すると各音が溶け合っているかのように聞こえる。 |
2001.4.21 L | 大阪フィル | ザ・シンフォニーホール | ★★★★★ |
CD | EXTON | OVCL-00063 | HDCD |
演奏について
この曲を得意とした朝比奈だが、このあと28日に福岡で演奏したのが最後となってしまった。ちなみにザ・シンフォニーホールで演奏された唯一の5番となる。当日の演奏会の模様はここにある。 第1楽章の序奏こそゆっくりとしたテンポとたっぷりとした間合いが取られるが、それ以外は少しだけ速いテンポが採用され、全休止も短めに進められる。そのため意外なほど瑞々しく旋律を奏でているが、低音から積み上げられる音響は内声部に至るまで非常に密に詰まっている。 何より驚かされるのは、良い意味で力の抜けたアンサンブルで、どの旋律を取っても無理のない自然な表情で歌えていることだ。こんなに自然な歌い口は他のどんなディスクをさがしても滅多に見つからない。それなのに全体に張り詰める緊張感が演奏をピリッと引き締めており、緩んでいるという印象は余り受けない。また朝比奈の棒のせいか、アンサンブルの縦の線が合わなくなってしまうこともあるが、このコンビ特有の暖か味ある透明な音色が非常に美しい。 終楽章では特にそうだが、対位法を構成するすべての旋律線が、それぞれ自己主張を行いながら、それらが有機的に絡まり合って行く様子は驚異的と言える。 そしてコーダでは金管が倍になるが、数の力でごり押しするようなこともなく、ダイナミックさがスムーズに拡大する。特に透明で広々とした響きのクライマックスは何かを解脱した清らかな世界のように音楽がキラキラと輝き出し、恍惚とも言える至福を与えてくれる。 最後の音が消えても誰一人拍手が出来ず、数秒の沈黙ののち爆発するような拍手が湧き起こったのはこの演奏の素晴らしさを如実に物語っている。ただ現段階で発売されているCDは編集のしすぎで、この演奏の魅力をかなりスポイルしてしまっているため、よっぽど集中して聴かないと以上の点は解りにくいと思う。 |
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録音について
重低音から高音まで確実に収録されていて、細かい表情を良く捉えているが、音が丸くなってしまってやや生気の抜けたものとなっている。一方、音の定位はしっかりしているが、楽器の位置が特定できるほどではなく、隣り合った音同士がほんの少しだけ溶け合ってしまっている。 また録音時のレベルが低かったのか、全体に音量が小さめだ。 |
1993.7.22 | 大阪フィル | 大阪フィルハーモニー会館 | − |
CD | Pony Canyon | PCCL-00400 | 全集 |
演奏について
3回目の全集録音のセットを購入した際についてくる特典盤。 5番のリハーサル風景については第1,2楽章の一部が収録。 未聴のため批評できず。 |
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同時収録
・4番の第3楽章 ・8番の第1,3楽章 ・9番の第1楽章 |
《 総 評 》
一通り聴いてみましたが、堂々たるスケールの新日フィル(92年)と繊細ながら生き生きとした東京響(95年)が双璧で、驚異的な熱狂が包む大阪フィル(73年)が続きます。
大阪フィル(01年)が内容的には最高の演奏なんですが、録音が非常に拙いため、聴いているとどうしても頭の中で足りない音を補完してしまいます。エクストンがダメなら、朝日放送が映像を保管しているはずなので、ぜひともDVDで発売することを熱望します。(一度は発売をアナウンスしたのですが、権利の都合か立ち消えてしまいました)
またシカゴ響とのものも初日の様子が記録用としてシカゴに、BS放送に使われたテープがNHKにあるはずですが、これも契約の関係かCD化またはDVD化の気配はありません。
当ページで使用した略称
・大阪フィル=大阪フィルハーモニー交響楽団
・新日本フィル=新日本フィルハーモニー交響楽団
以下のリンクは、CDとは別に聞きくことのできた演奏について書いたものです。
・ 2001. 4.21 大阪フィル at ザ・シンフォニーホール (CD化済)