この前に行ったのはいつだっけ? と思うくらい久しぶりの演奏会です。去年の大フィルの第九が最後ですから、ちょうど1年ぶりとなってしまいました。今日、タクトを振る音楽監督の大植さんの指揮に至っては03年5月の就任披露演奏会でのマーラー「復活」以来ですから、実に4年半ぶりです。いや〜、久しぶりにも程があります。そう言やシンフォニーホールにも2年ぐらい行ってないや。
「年末の第九は振りません」と公言していた大植さんですが、今年はベートーベンチクルスを行っていたこともあって、例外的にこのフェスの舞台に立ってくれたみたいです。
音楽監督になって4年目にベートーベンチクルスを敢行するとは、大植さんがオケの掌握したことの確信を得たことの現われで、就任以来4年間の総決算を行うと共に、これからの自身と大フィルの方向性を示す重要な発表の場と言えるのではないでしょうか。
そんなチクルスですが、全曲朝日放送によって録画がなされ、9番も前日に当たる29日に収録されたようです。ですから、この日はテレビカメラはなく、天井と舞台上に録音用のマイクが立っているのみでした。
ぜひともDVD化して一般発売を行って欲しいものです。
そうそう、楽譜は今やすっかりスタンダートな地位を獲得したベーレンライター版を使っての演奏だそうです。
さて、開演10分前にフェスに着いたのですが、まだ入場口には人が並び、ロビーも多くの人に溢れていました。
グッズ売り場を覗くと「大阪フィル創立60周年記念史」を発見。即刻確保。
客席でパラパラめくってみると、様々な手記や定期演奏会で取り上げた全曲目リスト、そして関西交響楽団から大阪フィルハーモニー交響楽団の事務方を含めた在籍者リスト、そして朝比奈隆を初めとした歴代指揮者(宇宿さんの名前もあった)が列挙され、読み応えたっぷりな正にデータてんこ盛りの本でした。
そうこうしているうちに合唱団員が順に入場してきました。
本題に入る前に言い訳をしておきます。
まずフェスティバルホールの2階席かつ隅の方という、今まで座ったことのない席での鑑賞となったためか、この日の演奏会は“?”が浮きまくるものとなりました。
まず、音が非常に痩せて聴こえました。普段なら合唱がffになると周囲の空気がビリビリと振動して体を包むのですが、今回はそれが全く体験出来ませんでした。加えてオケも楽器の直接音のみが聞こえてくる感じで、非常に余所余所しい演奏に聴こえてしまいました。
朝比奈時代の大フィルはこのフェスの広大な空間でもガンガンに鳴らせていましたが、これが大植体制になりシンフォニーホールをメインしたための変化なのか、単純に座席の位置が最悪だったのかは、判断することが出来ませんでした。
てな訳で、以下のレビューはいつもに増して辛口のものとなります。ですから「オケも合唱団もダイナミックな演奏だったぞ」と言う方は、私の座った席が悪かったのだと笑って許してください。
まず楽器の配置ですが、弦楽器が第2バイオリンを指揮者の右手側に移動させた古楽的配置で、時計回りに第1バイオリン、チェロ、ビオラ、第2バイオリンとなり、コントラバスは第1バイオリンの後ろに並んでいました。また管楽器は倍管にせず、第4楽章で登場するピッコロ、コントラファゴット、打楽器群の奏者は第1楽章の頭からステージに上がっていました。
続いて声楽ですが、合唱は前半分を女声、後半分を男声が占めていて、それぞれの左右にソプラノ・アルト、テノール・バスに分かれていました。また独唱陣は合唱の前、オケの後ろの配置となっていて、第2楽章の終了時に入場となりました。やはり独唱はこの位置が一番良いと思います。
次に指揮者ですが、4年前に見た時より更に恰幅の良い腹回りになっていました。最初マジで下野さんとダブって見えましたよ(笑) あとどうでも良いことですが、指揮台がデッカイ。登るためのステップが付いている指揮台なんて初めて見た。指揮棒が高い位置にあると奏者から見やすいことも充分理解出来るのですが、まだまだご老体ではなく若いんですし、見栄は張れるだけ張りましょうよ。
こんな戯言よりも、今回気になったのは、大植さんに覇気があまり感じられなかったことです。音監就任時の大植さんはエネルギーの塊で、何よりキラキラと輝いて見えました。首のケガなんかで演奏会のキャンセルがあったして、体調が完全に回復していないのかもしれません。
オケの方ですが、弦楽器については文句なしの出来でした。低音・中音共にギッシリと中身の詰まった響きは非常に充実おり、加えて透明感と暖か味のある音色は正にこのオケだけのもの言えるでしょう。大フィルの宝です。ただ座った席のせいか迫力に欠けていたと感じてしまったのが残念です。また第1楽章で指揮者が拍の頭を強く弾くように指示を出したのにも関わらず、その瞬間だけ反応し、あとはのっぺりと演奏してしまったのがよろしくなかったです。
次にティンパニが素晴らしかった。ビシッ、ビシッと演奏にアクセントを加え、曲全体を筋肉質に締め上げていました。
最後は金管ですが、トロンボーンは問題なかったのですが、ホルンとトランペットが聴いていて不安でした。トランペットは非常に伸びのある音を出していたのですが、時々非常に不安定になるのがハラハラしました。またホルンはやっぱり第3楽章のソロで、演奏自体は難なくこなしたのですが、この時会場全体に安堵の空気が流れました。日本のプロオケでこんな現象が起こるのはここだけです。早急のレベルアップを望みます。
独唱陣ですが、以前は意地でも全員日本人で揃えていました。しかし今回は全員西洋人で揃えて来たことで、これも体制の変化を強く感じました。
全体の印象は4人とも余りこの曲になれていないのかな、と感じました。特にバリトンは音符が伸びたり縮んだり、息が続かなかったり、不安定要素てんこ盛りでした。
発音等は4人ともドイツで活躍しているため非常に自然でしたが、やはり場数が桁違いである日本人歌手の方が抜群の安定感があると思いました。
合唱は去年と比べて、発声がしっかりとしていて更に透明感が上がり、ピッチも精度が上がり、とてもスマートになった印象を受けました。また男声の数が揃っているので、バランスの良い響きになっていたことも良い点でした。
ただそれとのトレードオフか、座席のせいか、小さくまとまってしまった感じで、以前はあった野太い迫力が薄れてしまった感がありました。まあ今後の課題でしょう。
全体の構成は、ベーレンライター版を使っている演奏にありがちな快速演奏ではなく、中庸的なテンポかつインテンポを基調とした演奏で、ドラマティックに過度な揺らし方をしない演奏でした。また全体的に見晴らしが良く、4つの楽章を一体のものとして捉えた俯瞰的な手腕はさすがで、聴いていて非常に気持ちの良い演奏でした。
特徴的な解釈では、第2楽章のスケルツォは前半が繰り返しありで後半が繰り返しなし、第3楽章と第4楽章はテンションを保ったまま突入し、終楽章コーダのプレスティッシモ直前のスローテンポによる大きなタメが挙げられます。
その一方、第3楽章終盤のファンファーレのキレとその後の悲壮感が不足していたことと、全曲の頂点となるクライマックスをどこに設定しているのか(まあフィナーレのコーダでしょうが)いまいち伝わってこなかった(爆発していなかった)ことが残念に感じました。
曲が終わると同時に「ブラボー!」の歓声と大きな拍手が湧き起こりました。
舞台中央に合唱指揮者の三浦さんを交え、独唱陣と手をつなぎ、観客の拍手に応えます。大植さんがコンマスの長原さんに一緒に手をつないでこの輪に加わるよう袖を引っ張って誘いましたが、「ヤダよ」と振り切られて断られたシーンには会場からクスリ笑いがこぼれました。
やがて大植さんが客席に向かって大きく手を振り、舞台袖に入るのを合図としてオケも解散となりました。
お客もこれに合わせて帰途に着く人が多くなりましたが、私はこのあと蛍の光があると思って、ずっと座席に残っていました。すると大フィルのメンバーがほとんど退場した時、ひょっこりと大植さんが舞台下手から姿を現したのでした。これには消えかけていた拍手も再び大きくなり、ちょっとしたサプライズとなりました。
ここでひとつ残念なことは毎年、最後に演奏していた「蛍の光」が今年はありませんでした。まあ今年は“第九シンフォニーの夕べ”ではなく“ベートーヴェン交響曲全曲演奏会W”なのですから、なくても当然ですが、体制も改まった所ですし、これを期に消滅してしまうかもしれませんね。(寂しいですが)
大植さんが今度こそ舞台袖に消え、合唱団員が順に一礼のあと退場し、2007年を締めくくる演奏会も幕が降ろされました。
総じて、何もない演奏会でした。
さて、次回の演奏会ですが、今のところ予定はありません。ただ、このままだと非常に悔しいので、何か気になる曲がパンレットに乗っていたら、プロ・アマ・地方問わずブラリと行ってみようと思っています。