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大阪フィルハーモニー交響楽団
「第9シンフォニーの夕べ」 in 2006

日時
2006年12月29日(金)午後7:00開演
場所
大阪フェスティバルホール
演奏
大阪フィルハーモニー交響楽団/大阪フィルハーモニー合唱団
独唱
並河寿美(S)、黒木香保里(A)、永田峰雄(T)、ロバート・ハニーサッカー(Br)
指揮
井上道義
曲目
ベートーベン…交響曲第9番 ニ長調《合唱》
座席
1階O列R26番

はじめに

 この日の前日に行く予定でした佐渡さんと大阪センチュリーとの第九には見事行くことが出来ませんでした。7年間ずっと通っていて、演奏会が続く限りは行こうと思っていただけに、今回の欠席はかなりのショックでした。しかし「こんなこともあるさ」と気を取り直して、フェスティバルホールへと向かいました。
 と、言いつつも勤務先から、何ヶ月ぶりとなる我が家へ立ち寄りもせず、直接ホールへと突撃する羽目となり、開演時間も迫り、最後はダッシュで座席へと駆け込む有様でした。

ベートーベン…交響曲第9番《合唱》

 第1楽章は遅いテンポを採り、じわりじわりと進んでいきます。大フィルがエンジンの掛りが遅いことも相まって、全体的に抑制された感じがしました。
 旋律の歌い方もテヌートで伸ばし気味でした。これだけだとのっぺりとした印象になるのですが、ティンパニが目の覚めるような鮮烈な打ち込みをして、鮮やかなアクセントを加えます。
 第2楽章はスケルツォもトリオもドライブ感溢れるテンポで、途中で井上さんのくねくねダンス(会場からクスクス笑い)も登場し、なかなか楽しい楽章となりました。
 ちなみにスケルツォは前半のみ繰り返しで、トリオ後のダ・カーポでは繰り返しなしのオーソドックスなものです。
 第3楽章では前楽章の勢いを受けるかのような速いテンポで推移していきます。「もっと歌ってくれ」と思う所もなきにしもあらずでしたが、大フィルのカラーなのか、井上さんの解釈なのか、その辺りは少し心残りでした。しかし、中低音がしっかりと鳴る充実した音色はまさしく大フィルのもので、その点は大いに満足。
 そして、終楽章に突入するわけですが、ここまで聴いて解ったことは、今日の井上さんの解釈はこの交響曲をひとつの直線で結び、第1楽章冒頭から終楽章クライマックスまでじっくりと歩を進めるように盛り上げていくんだな、と感じました。

 ここで声楽のことを書きます。まず合唱ですが、男声が少なくなってしまったのが目に付きました。しかし、ピッチがしっかりとしていて、各旋律にブレが少なく、非常に安定したコーラスとなっていました。
 一方、幾分線の細いコーラスで、第九らしいもっと力のこもった声が欲しいと思いました。また発声に明瞭さが不足し、歌詞がよく聞き取れないことがありました。
 なんでも、大フィル合唱団は現在、構造改革を断行中だそうなので、それがかなり良い方向へ向かっていることは肌で感じました。

 独唱ですが、なかなか個性豊かな声が集まったようで、今日は四重唱ではなく、まさに独唱が4人集まった感じがしました。ですから4人とも声がガツンと前に出てくれて、エキサイティングなものとなりました。(普段は埋没してしまうアルトが今日みたいに自己主張してくれると、大変楽しいです)
 ただ、声楽一発目のバリトンソロで音符を突然倍近く引き伸ばしたときは、「うわっ、楽譜が頭から飛んだのか!?」と聴いてるこっちの方が緊張してしまいました。井上さんもギクリとしたのでないでしょうか(笑)

 曲の最後は倍管を擁するオケのパワーを存分に見せつける演奏となり、クライマックスは見事な盛り上がりを見せました。(欲を言えば、プレスティシモ直前のマエストーソ(テンポが大きく落ちる所)のテンポを落としすぎたような気がしますが)
 曲が終わると割れんばかりの拍手と歓声が湧き起こり、会場は演奏者を称える拍手が続きました。

蛍の光

 さて、一旦照明が落とされると椅子がピットへと沈められ、蛍の光の準備が行われました。
 いつもなら準備が整い次第、ステージに指揮者が現れるのですが、今回は現れませんでした。ホールのどこかで、ペンライトを振っているとは思うのですが、結局最後まで見つけることは出来ませんでした。
 曲の冒頭ですが、男声のソロからスタートしたのには非常に驚きました。技量に自信がないとなかなか出来るものではありません。歌う人数がペンライトと共に段々と増えていき、やがて全員による合唱へと発展しました。
 先にも書きましたが、各パートのピッチが合っていて、線が幾分細いものかなり安定したコーラスでした。また、フレーズ最後の音もコントロールの効いた丁寧な切り方で、しっかりと訓練されている印象を強くしました。曲冒頭のソロと言い、合唱団として今の実力を充分にアピールできたと思います。大フィル合唱団の更なるレベルアップを期待します。
 演奏は2番まで歌うと、後はハミングとなって、ひとつずつライトが消されると合唱も音が絞られていき、闇に消え行くように曲が締めくくられました。
 暗闇の中、静かに緞帳が降ろされると、もう一度盛大な拍手が起こり、演奏会も終わりを告げました。

おわりに

 そう言えば、第1楽章後のインターバルで井上さんハンカチ取り出してひらひらと振った後、鼻をかむジェスチャーをやったんですが、あれは演奏中くしゃみする時はハンカチ当ててくれって言う意味だったんかなー。(団体バスがホール横に止めてあったし、演奏中変な声を上げるひともいたし、初心者マークの人が多かったのかもしれませんね)

 総じて、抑制された熱さを感じた演奏会でした。

 さて、悪き習慣と化していますが、今年もまだチケットを1枚も買っていません。年末の第九だけでなく、他のコンサートも時間を作って行きたいと思いますので、生暖かい目で見守ってください。


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