1年ぶりの御無沙汰となりましたフェスティバルホールです。コバケン人気もあってか入場券は売り切れのようで、「満員御礼」の立て札が立っていました。
今回、チケットを買うのが遅かったためか、席がかなり右の方でした。ご存じのようにフェスは左右にだだっ広いので、横の方だと楽器や合唱の直接音が良く聞こえなくなります。またそれを補ってくれる残響も豊かではないため、ステージがとても遠くに感じました。ですからやや冷めた感想になると思いますが、その点はご了承下さい。
開演時間が近付くとまず合唱団が入場し、それが済んでから大フィルのメンバーが順次入場してきました。ソリストと打楽器陣は第2楽章後の入場となりました。
さて、コバケンが大きな拍手に迎えられると、胸に手を当てて客席に一礼します。そして指揮台に登りましたが、一向にタクトを下ろそうしません。やがて天井を指差し楽員ひとりを舞台裏へと走らせました。
「えー、いま空調を止めてもらってます。しばらくお待ち下さい」
どうも空調の唸る音が気になったようです。(自分の唸り声は気にならないようです)
やがて空調が止まると弦が聞こえるか聞こえないかの小さなトレモロを開始しました。
テンポは全体的に快活で、推進力あるものでした。またオケも低音楽器ががっしりと土台を支える重量感あるサウンドで、非常に密度の濃いものでした。ただ楽員の顔だけ見てると非常にシレッと演奏しているように見え、そのギャップが面白く感じました。
またティンパニのトレモロを32分音符でキチッと叩かせている割には楽想の転換時に何ヶ所か全休止(間)を入れたりして良く解らないことをしてました。
そうそう第2楽章でスケルツォのリピートは全て省略してました。
第3楽章からオケの方もエンジンがかかってきたようで、旋律に歌を感じるようになってきました。コバケンもテンポを遅めにして腰を据えて演奏していきます。ただ木管楽器のブレスコントロール(特に音の切り方)に時折ビックリするほど雑な処理があって残念に思いました。ホルンソロにドキドキするのはいつもの通りです。(何とかしてくれ)
第4楽章になると、“ここからが本番”かのように、コバケンの指揮もヒートアップしてきました。
独唱陣で気になったのはハニーサッカーさんで、幾分オペラチックな歌い方をしていましたが、その分テンポが遅れ気味で、コバケンがテンポを取り戻そうと苦労している様子が見て取れました。オペラならあれでオッケーかもしれませんが、これは交響曲なので全体の造型からはみ出ることは避けて欲しいと思いました。
合唱団は少ない男声陣が健闘していて厚み不足になることはありませんでした。また女声陣も高音で金切り声を上げることもなく、広がりを感じさせる声で大変良かったと思います。あれだけの人数がいて割りと濁りの少ないハーモニーはもっとパンチ力が欲しかったのですが、比較的良かったと思います。(vor Gott! の異常なフェルマータはいったいどうなるのかと心配しました)
激しいプレスティッシモで曲が締めくくられると同時に「ブラボー」の声も掛かり、会場は大きな拍手に包まれました。
楽員と握手をして回り、各パートを立たせると恒例のスピーチが始まりました。
「今日は朝比奈先生のご命日にあたりますが……(拍手)、先生は私に純白のスコアを渡して、行間から歪められない真実を感じ取って欲しいと書いてくれました。しかし水平線のように近付いたように思えてもまた遠ざかっていきます。これも皆様方のご支援を無しには成し遂げられません。どうか息災な一年でありますようお祈りします」(うろ覚え)
と、締めくくると再び客席から大きな拍手が湧き起こりました。
指揮者に続いてオケが解散すると舞台は暗転し、ピットが沈められると、しめやかに蛍の光が歌われました。
左右からスモークが焚かれ、舞台が青いライトで照らされます。やがて3番がハミングで歌われるとゆっくりと緞帳(どんちょう)が降ろされ、コンサートの幕も降ろされました。(今回メッセージはなかったです)
朝比奈さんは歪められることのない真実、と言ったようですが、今日の演奏はその場その場の刹那的な享楽で進んでいった印象を受けてしまいました。聴いている最中は、どうしてその楽器を強調するのか? どうしてそこでテンポを動かすのか? と疑問符が浮かびまくりの演奏でした。そんな小手先の目新しさなんかなくても十分聴かせる演奏ができると思うだけにやや不満の残る演奏会でした。(ひょっとすると私が枝葉末節だけ見て全体を感じ取れていないせいかもしれませんが……)
総じて、木を見て森を見ない演奏会でした。
さて次回は佐渡裕&大阪センチュリーによる第九です。
一年の締めくくりに相応しい演奏会となるのか非常に楽しみです。