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ジャニーネ・ヤンセン(Vn)&ベルギー国立管弦楽団
大阪公演

日時
2004年7月4日(日)午後2:00開演
場所
ザ・シンフォニーホール
演奏
ベルギー国立管弦楽団
独奏
ジャニーネ・ヤンセン(Vn)
指揮
ミッコ・フランク
曲目
1.チャイコフスキー…ヴァイオリン協奏曲
2.シベリウス…交響曲第2番 ニ短調
座席
1階L列12番

驚くことばかり

 シンフォニーホールのエントランスをくぐり、もぎりのお姉さんにチケットを渡すとまず最初に驚きました。チラシが異常に少ない。いつもなら持つのにも困るくらいコンサートのチラシを配っているのにこの日はほんの数枚をもらうだけでした。(しかもこの日のプログラムを書いた紙とチラシを除くと2・3枚でした)
 またいつもなら500円ほどで売っている別売りのプログラムなどまったくなく、今日の演目はペラペラの紙1枚に書いてあるだけがすべてでした。
 会場に入るとまたもや驚きました。お客が異常に少ない。1階正面席は間違いなく満員でしたが、他の席はガラガラと言うよりスッカラカンでした。
 低予算でやっているのか、お客が入らなくても別に構わないのか、よく分からないプロデュースです。

 今日の主役は完全にヴァイオリンを独奏するジャニーネ・ヤンセンさんで、そのバックを勤めるベルギー国立管弦楽団は二の次で、指揮するミッコ・フランクさんはどうでもいい存在のようでした。私のようにフランクさん目当てで来た人は極少数派のようでした。
 フランクさんは脊髄の病気で音楽活動は不可能と言われていたのですが、現在その病と上手く折り合いをつけて指揮台に上がっている若き俊英です。
 最近になって指揮活動が軌道に乗ってきたのか、日本にも来てくれるようになり、CDもポツリポツリと発売されるようになりました。特に私が彼に興味を惹かれたのが、「異才」とまで言われるほどの個性的なアプローチをする、という評判でした。
 普通の演奏に少々飽き気味だったせいもあり、今日の演奏会は指揮者に大きな期待を寄せていたのでした。

 さてステージ上での準備が整いますと、照明が落ちてソリストとコンダクターの登場となりました。
 大きな拍手で出迎えられる二人でしたが、ヤンセンさんはすらりとした長身の美人さんで、この日は両肩を出したドレスを着ていました。
 一方、フランクさんは非常に背が低く、肩幅や下半身は健常者と同じくガッチリとしているのに胴体だけが切り詰めたように短かったので、そのことに驚くと共に病気と闘っていることを強く感じ取れる姿でした。指揮台の上にはいすが置いてあり、普段はそれに座っての指揮となりました。

チャイコフスキー…ヴァイオリン協奏曲

 独奏者であるヤンセンさんの音色は柔らかさのある繊細なタッチで、なかなか美しいものでした。またどのポジションでも確実に音程を決め、テクニック面で疑問に思う所は皆無でした。また歌う所はしっかりと歌い、エゴイスティックなものはありませんでしたが、上品で清楚な演奏は曲の最初から最後まで聴き入ってしまうものでした。
 一方オケの方は、サーポート役に埋没してしまうことなく、なかなか押しの強い音を出しており、決め所では火の出るような熾烈さを出していました。またソロとオケの連携が上手くいっていて、お互いが自己主張しながら統一された音楽を作っており、強烈な急加速を行っても両者がぴたりと合っている所など非常に感心しました。

アンコール その1

 コーダの強烈な追い込みに会場からは大きな拍手と歓声が湧き起こり、その拍手に応える形でアンコールが演奏されました。
 バッハ…無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番より 第1楽章アダージョ
 こうしてソロだけで聴いてみると、やはりこの人の音色は繊細で細く、オケと対峙するような音楽には向いていないような気がします。どちらかというと室内楽向けだと感じました。
 しかし漂うような音色は美しく、演奏が終わってもしばらくは沈黙が続き、やがて大きな拍手となりました。

シベリウス…交響曲第2番 ニ短調

 休憩が終わり、ヤンセンさんの関係者が帰ったあとはオーケストラだけでシンフォニーを1曲演奏する訳ですが、今回はシベリウスの2番ということでした。
 で、その内容ですが、少し早めのテンポでキレのいい音楽を展開していきました。(「超スローテンポでシベリウスを演奏した」と以前聞いていたので、この点は少し残念でしたが) オケも中低音がぎっしりと詰まった感のあるダイナミックで充実した音を出しており、各楽器間のやや粘り気を感じさせる音色にも統一感がありました。(オケ独自の音色なのか、指揮者の持つ音色なのかは判りませんが、少し独特な音)
 フランクさんはほとんどいすに座っていて、左手で常に背もたれを掴んでいました。(右手でタクトを振るため、左手で上半身を支えないと右手の反動が背骨にかかるためだろうと思います) タクトは非常に高い位置で振ってましたが、決め所やアンサンブルが怪しくなりやすい所では立ち上がって指揮台上を動き、ポイントを押さえるとサッといすに座ってました。長時間立つことができないようです。

 演奏の方は第1楽章の展開部の入りでぎょっとするようなスローテンポをみせましたが、大体は早めのインテンポを基本として(終楽章だけはやや細かく揺らしてましたが)、そのために少しくらいアンサンブルが難しくなろうとムチを入れまくってそのまま進んで行く感じでした。
 全体的にテンションの高い演奏で、どこかに爆発的な頂点を設定するアプローチではなく、高い緊張感を保ったまま一貫性を持って突き進めて行く音楽は非常にシリアスな感じがしました。指揮者の年齢を考えるとその構成力と世界観の作り方は大変感心しました。
 終楽章のコーダではスケールの大きな鳴りっぷりでかなり立派なクライマックスを描いていましたが、その前にテンションがかなり上がっていたためか、その効果ほどのカタルシスは得られなかったのが少しだけ残念でした。

アンコール その2

 大きな拍手のなか、フランクさんはスタスタとステージを往復し、素早くアンコールがかかりました。
 プロコフィエフ…バレエ「ロミオとジュリエット」より モンテギュー家とキャピレット家
 非常に重心の低い重い音楽で、両家が共に悪の組織か何かのように感じさせる(笑)迫力満点な演奏でした。

おわりに

 この日会場でもらったこの演奏会のチラシを読むと、今回のツアーは演目の前半がヤンセンさんのチャイコフスキーで、後半はシベリウスの2番かムソルグスキーの「展覧会の絵」のどちらかだったそうです。今日の演奏を聴くとフランクさんには「展覧会の絵」の方があっているような気がしました。(チャイコフスキーの「悲愴」を得意としているそうなのでそっちでも良かった)
 しかしこの人だけが持つ独自性は垣間見えたので、今度はぜひフランクさんメインで、この人の持ち味が充分に出る曲目で聴いてみたいと思いました。

 総じて、演奏は非常に良かったですが、プロデュース方法に疑問を持った演奏会でした。

 ちなみにこの後4時間掛けて静岡に帰りましたが、車の運転が辛かったです。
 さて次回はわずか1週間後でしたが、シャンバダールとベルリン交響楽団によるベートーベンプロとなりました。ドイツオケによる直球プログラムです。どんなアプローチによる演奏をしてくれるのか非常に楽しみにしていた演奏会です。


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