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シャンバダール&ベルリン交響楽団
大阪公演

日時
2004年7月10日(土)午後2:00開演
場所
ザ・シンフォニーホール
演奏
ベルリン交響楽団
指揮
シャンバダール
曲目
ベートーベン
1.付随音楽「エグモント」序曲
2.交響曲第6番 ヘ長調「田園」
3.交響曲第5番 ハ短調「運命」
座席
2階BB列20番

無印良品の直球勝負

 シャンバダールさんは1950年にイスラエルで生まれましたが、オーストリアやイタリア・フランスで勉強をした人です。そのなかでもヴァイオリンとビオラを学んだ先生が日本で教鞭を取ったことのあるひとで、シャンバダールさんは日本に興味を持ち、琴や琵琶のレッスンを受けたことがあるそうです。
 このコンビは2002年に続き2度目の来日だそうですが、今回は19日間に沖縄から仙台まで17箇所も回るというハードスケジュールな(と同時にモテモテっぷりもうかがえる)ツアーのようです。
 一方、取り上げる曲目もベートーベンのエグモント序曲と交響曲第3・5・6・7番、それにドボルザークの「新世界より」とグリーグのピアノ協奏曲というオーソドックスな名曲がずらりと並んだものとなっています。
 普通、外来オケは何か呼び物となるものを用意するのですが(例えばマーラー)、このオケはベートーベンの直球勝負に来ました。余程の自信がないと出来ない芸当だと思います。
 久しぶりの2階席に身を沈めると、すでにステージ上の準備は整っていて、大きな拍手と共に大きな腹回りのシャンバダールさんが登場しました。会場は意外なほどの盛況で、客席は満員でした。

「エグモント」序曲

 重くずっしりとした音色からエグモント序曲が始まりました。テンポは全体的に速めでしたが、重さを感じさせるリズムのおかげでとても落ち着いて音楽が進んでいきました。またインテンポを基調とし、不自然なテンポの変化をしないので、聴き手を無理にあおったりすることは皆無でした。
 また奇をてらったりすることもなく、こちらが期待しているオーソドックスなベートーベンを非常にドイツ的なオーケストラサウンドで聴かせてくれます。ベルリンフィルやドレステン・スターツカペレのような一聴して分かる凄さはありませんが、安心して聴いていられる無印良品的な品の良さです。

交響曲第6番「田園」

 力強さに満ちたエグモントの後は、肩から力の抜けたようにリラックスした「田園」が始まりました。
 テンポはエグモント以上に速めに設定され、スイスイと滑るように進んでいきますが、腰高になったり、上滑りしたりすることは一切ありません。
 第4楽章の嵐からはテンポがさらにもう一段階速めに設定され、非常に勢い良く音楽が進んでいきましたが、終楽章のコーダでは大きく音楽が膨らみ、充実感ある曲の結びとなりました。

交響曲第5番「運命」

 休憩後はベートーベンの5番ですが、これもかなりのハイペースで、演奏されていきます。また冒頭の運命の動機も粘っこくやらず、タタタターンとリズミカルに処理します。そして繰り返しは第1楽章の提示部のみ繰り返す標準的なもので(そういえば6番では第1楽章と第5楽章で提示部を繰り返してました)、オーケストレーションは余りいじらないものでした(例えば第1楽章再現部での第2主題を導くファゴットとホルン)
 最初から最後まで非常にテンポ良く進んだのですが、終楽章が早めのテンポのため、オケが充分に鳴り切っておらず、やや軽い感じがした点のみ少し残念でしたが、全体の構成もしっかりしており、こちらも聴き応えのある演奏となりました。

アンコール!

 鳴り止まない拍手にシャンバダールさんはそれを抑えるようなジェスチャーをして、客席に向かってこう言いました。
「またシンフォニーホールで、演奏できたことをとても嬉しく思います」
 流暢な日本語です。
「ブラームス、ハンガリー舞曲を演奏します」
ブラームス…ハンガリー舞曲集より第5番
 
 またもや起こる大きな拍手に応え、指揮台上に上ったシャンバダールさんがタクトを一振りします。ジャン! とオケがひと鳴りするとくるりと客席を振り向き、
「ブラームス、ハンガリー舞曲の、ロク番でーーす!」
 と曲名を告げました。
ブラームス…ハンガリー舞曲集より第6番
 
 拍手はまだまだ続きます。
「ドヴォルジャーク、スラブ舞曲の、ハチ番でーす」
ドボルザーク…スラブ舞曲集より第8番
 
 これで終わりか? と思いましたが、舞台上手からは新しい楽器を持った楽員が足早に入場してきましたので、まだまだ楽しませてくれる事が判りました。
「最後に」
 会場から笑みがこぼれます。
「エルガー、エニグマ、ゴニョゴニョ……」
 良く聞き取れなかったため、会場中に「?」が浮かびましたが、アンコール最後の曲はこの曲でした。
エルガー…エニグマ変奏曲より第9変奏
 穏やかで広がりのある充実した響きが会場を包み、アンコールとしてはこれ以上ない充足度で演奏会の幕が降ろされました。

おわりに

 今、ベートーベンの演奏はどれだけ個性的なアプローチをすることかが求められ、そういったもののない演奏は価値がないかのような風潮ですが、今日のような演奏を聴くと、何千何万もの人の手によって築き上げてきた“伝統”と言うものはやはりバカにはできない重さと確かさがあるんだな、と思いました。
 普通でしたが、そのドイツ的な普通さが非常に心地よかったでした。

 総じて、オーソドックスな愉しみをたっぷりと味あわせてくれた演奏会でした。

 さて次回は順調に行けば金聖響と大阪センチュリーとのマラ4です。さてさて、どんなマーラーを聴かせてくれるのでしょうか? 楽しみです。
 個人的なことで恐縮ですが、ストックしてあるチケットがたった1枚こっきりというのは初めてです。軽くショックを受けています。


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