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ザ・シンフォニー名曲コンサート Vol.59
小林研一郎/情熱のタクト

日時
2003年3月15日(土)午後2:00開演
場所
ザ・シンフォニーホール
演奏
大阪センチュリー交響楽団
独奏
仲道祐子(Pf)
指揮
小林研一郎
曲目
1.シベリウス…交響詩「フィンランディア」
2.ラフマニノフ…ピアノ協奏曲第2番 ハ短調
3.ベートーベン…交響曲第7番 イ長調
座席
1階J列23番

はじめに

 3ヶ月ぶりのシンフォニーホールは生憎の雨でした。
 会場はほぼ満員と言える盛況ぶりで、ホールの天井を見渡すと、メインマイクの他にサブマイクが2本ぶら下がっていました。(ラフマニノフの時にはピアノの前にもマイクが1本立ちました) ひょっとするとラジオで放送されるのかもしれません。
 それにしても、今回初めてJ列に座わることができましたが、見晴らしの良さはもちろんのこと、楽器のアタック音を生々しく肌に感じることが出来る最高の席でした。

シベリウス…交響詩「フィンランディア」

 金管のよる最初の唸りから満点の充実度で、透明感がありながら中身のぎっしり詰まった音は充実感がタップリとありました。
 またコバケンの指示にオケが鋭く反応し、ハッとするような音量の絞り方を行っていました。
 音楽は一分の隙もなくクライマックスへと流れていき、最後は堂々たるコラールで曲が締めくくられました。
 曲が終わると無粋な「ブラボー」が掛かりましたが、これさえなければ一瞬会場が静まり返るくらいの素晴らしい昂揚感と充実感でした。コバケンも思わず小さくガッツポーズをした程、会心の演奏でした。

ラフマニノフ…ピアノ協奏曲第2番

 ピアノがステージにセットされると、ソリストの仲道祐子さんが真っ白いドレスを身にまとい登場しました。
 ラフマニノフのコンチェルトと言うとごっつい指の人が野太く弾いていくイメージがありますが、今日の仲道さんは非常に繊細なタッチで可憐にラフマニノフを弾きこなしていました。
 ヨーロッパで教育を受けた人らしく、音色に感じられる薫り(もしくは適度なウェットさ)が好ましく感じました。(アメリカで教育を受けた人の持つ乾いた音、もしくはソリッドさは余り好きではありません)
 オケの方は逆に重心の低い、ずしんとした音を響かせていたのが対称的でした。

ベートーベン…交響曲第7番

 休憩が終わると、オケが2管編成となり、ベートーベンが始まりました。
 このリズムの祭典をコバケンがどう料理するのか非常に楽しみにしていましたが、その冒頭からスローテンポでじっくりと進む巨匠風のアプローチで、音のひとつひとつを濃厚に歌い込んでいくものでした。
 特徴的なのは、弦には重厚な表情を与え、管には軽やかさを含んだ輝きのある音を出させていたことです。またさっきのフィンランディアと同じく、透明感がある音色は輝きがあり、日本で聴けるオケではないような錯覚を起こしました。
 オーケストラは非常に気合いの入ったプレイで、後ろのプルトからもしっかり音が鳴っており、チェロとコントラバスがしっかりとボトムを支えていたものでした。スローテンポに手こずり気味でしたが、集中力を最後まで持続させておりました。

 リピートをまったく行わない流れ重視の演奏でしたが、スローテンポのせいか、急いで突っ走って行く印象はなく、各楽章の均整も良く取れたものだったと言えます。
 ただスケルツォのトリオがやや粗っぽかったのと、どうせスローテンポでやるなら、フィナーレももう少しテンポを落としてじっくりと進めて欲しかったと思いました。
 それでもジリジリとテンションの上がっていくフィナーレは大変盛り上がり、コーダではオケが一丸となって熱狂的な音楽を形作り、会場が段々と沸き立っていくのが手に取るように判りました。

アンコール

 曲が終わると同時に「ブラボー!」の歓声が湧き、大きな拍手が会場を埋め尽くしました。
「ありがとうございました〜」
 弦のトップと握手して回るコバケン。コントラバスのトップとも握手した際、他のメンバーとも握手を交わしてしまったのを皮切りに、オケ全員と握手して回りました。
 そして拍手を制するといつもの一言が始まりました。
「今日の大阪センチュリー交響楽団の情熱ある演奏は、皆様が影のように寄り添い支えてくれたからでございます。
 アンコールとしてブラームスのハンガリー舞曲集の1番を演奏しますが、ハンガリーには日本語に大変似た言葉があります。ナンドールさん(今日のコンマスでハンガリー出身)“白鳥”ってハンガリーではどう言います?」
「ハクシュ」(うろ覚え)
「それでは“コショウがない”ってどう言います?」
「コショガナイ」(うろ覚え)
「ちゃんと“コショウがない”って聞こえるでしょ? こういう風にハンガリーには冒頭に濃厚なアクセントがあって、スッと下がる。これをこれからやるハンガリー舞曲から感じてもらえたらと思っております」
 ハンガリー在住経験のある方から伺った話によると、“白鳥”は“ハッチュー”と聞こえ、“コショウ”は“ボルシュ”なので上記のは聞き間違いで、“塩”を“ショー”と呼ぶことから“塩が足りない”=“ショータラン”という冗談だろうと言うことでした。これはコバケンが良く使うネタだそうです。ありがとうございました。

・ブラームス…ハンガリー舞曲第1番
 力みがない分、楽にオケが鳴り、大きなうねりを持った大音量がホールを埋めました。
 終わると再び拍手と歓声。この時、唯ひとり握手を交わしていなかったトライアングルの人とも握手を交わすと、再び一言が始まりました。
「アンコールはハンガリー舞曲しか用意しておりませんで、オーケストラとも打ち合わせをしていないのですが、もう一度ベートーベンの最後の部分を、30秒程ですが、演奏したいのですが……。(会場から拍手) それではこれからちょっとオーケストラとお話をします。「K」、小林の「K」から」(会場から笑いが漏れ、オケは楽譜をめくる)

・ベートーベン…交響曲第7番のフィナーレから最後の部分
 さっきと比べてやや荒れ気味でしたが、これも力強い演奏で、コバケンが指揮台から足を踏み出して第2Vnの真ん前まで突っ込んで指揮をしていました。
 これも大きな拍手で迎えられ、全員で一堂礼をして解散となりました。

おわりに

 チェコフィルとの関係が深くなるに従って、コバケンの持つ音色が段々と澄んで美しくなって行くように感じます。その一方、コバケンを形容するときに使われている「炎」やら「情熱」は確実に後退していると思います。
 コバケンも60を超えて転換期に入ったと思われますが、いったいどんな姿になるのか楽しみでもあり、不安でもあります。
 また今日の音色の冴えは素晴らしく、ここ最近のコバケンの国内オケを振ったCDでも聴けないくらい美しいものでした。大阪センチュリーの機能が全開になった演奏だったと言えます。

 総じて、このコンビの演奏会がまた聴きたいと思った演奏会でした。

 さて、次回は金聖響氏の新世紀浪漫派!「シューベルト」です。シューベルトの交響曲第7番、8番という直球勝負、しかと聴く所存です。


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