コンサートに出掛ける直前まで気が付きませんでしたが、今回初めてテレマン室内管弦楽団と合唱団の演奏を聞くこととなります。
毎年年末にシンフォニーホールで「100人の第9」と「てれまんのバロックなクリスマス」と言う催しを行っていますが、いつも行けなくて一度はこの団体の演奏を聞いてみたいと思っていたのでした。
さて客席に座るとステージの左右にはトールボーイタイプのスピーカーのようなものがデンと置いてあり、天井にはこれまたスピーカーが吊されていました。(ステージ上のものが実はカンタータ用の字幕表示機だとは後で気付いた)
開演時間になると会場の照明が落ち、パイプオルガン奏者である土橋薫さんが二階のバルコニー席の脇から登場しました。
学校の音楽の時間に聞いたバッハの「小フーガ」はこの曲に対しての呼称です。
演奏の方は最初と言うこともあってか表現に硬い所があり、ところどころ曲想に滑らかさが欠けているような部分がありました。
演奏が終わると今日の司会である礒山(いそやま)さんがマイクを持って登場しました。いずみホールの音楽ディレクターであるこの人が今年一連のバッハコンサートを企画したのです。なんでも今日は満員御礼だそうです。こんなことはほとんどないことだから大変嬉しいと言ってました。
礒山さんがバッハと今日のコンサートの主旨を説明するとテレマン室内管弦楽団のメンバーが入場してきました。そして指揮者である延原さんが字幕表示機にけつまづきそうになりながら登場しました。ゆで卵のような頭がプリティー。
演奏の方ははっきり言うと第1Vnの縦のラインがぜんぜん合っていなくてがっかりした。
ただでさえ人数の少ない編成(第1Vnから順に3人−3人−2人−2人−1人とオルガン)なのだから、もっと精緻に演奏して欲しいものだ。
再びパイプオルガンの土橋さんが登場してきて、ガボットの演奏をしました。
冒頭の大フーガよりだいぶリラックスした演奏で、可愛らしい演奏でした。
テレマンのコンマスの人がバロックヴァイオリンを持って登場。演奏前にひとりで譜面台を移動させ、高さを調整してました。
軽い力で鳴る古楽器なためずいぶんおとなしい演奏でした。それでもこれが舞曲だということがよく解る軽やかなものでした。
ビスケットかなにかのCMに使われていたことを思い出しました。礒山さんにバロックヴァイオリンの特徴を説明してくれと、マイクを向けられていました。それに言葉をひとつひとつ選んで朴訥と応えてくれていました。うかがった話によるとプライベートなときもこんな話し方だそうです。
バッハの無伴奏チェロ組曲のなかでももっとも難しい6番(なぜならこの曲は5弦のピッコロチェロを想定して書いているからです)を取り上げるとはなかなかのチャレンジャーだと思っていましたが、今日はそのピッコロチェロを持ってチェロトップの人が登場しました。
ご本人は「5弦でも四苦八苦します」と言っていましたが、なるほど必死で弾いているのがよく解りました。特にコード弾きの部分が大変みたいです、やはりこの曲は難曲だ。
無伴奏の2曲は最初モダン楽器でする予定だったそうですが、演奏者のお二人が古楽器を持ち込んでくれたそうです。
三度、土橋さんが登場して有名なこのコラールを演奏しました。
マイラ・ヘスの編曲版ではなかったようですが、コラール(賛美歌)主題と伴奏の2つのラインを同時に演奏するのは大変なことのようでした。
しかしこの曲の持つ透明な崇高さがでたもので、演奏後は穏やかな気分になりました。
後半1曲目は器楽だけのシンフォニアでしたが、この曲はオルガン協奏曲のような風体を持っていて、通奏低音に支えられてオルガンソロが軽やかに活躍しました。
前半に感じたオケの不安もだいぶ払拭できた演奏でした。
カンタータというのは毎週日曜日に行われるお説教の後に演奏される音楽で、その日の礼拝のテーマに合わせた曲作りがされています。(ちなみにバッハはプロテスタントです)
で、56番は生きるということは神がお与えになった苦難の旅であるが、その務めを立派に果たすと必ず天国への門が開かれ安息を得られるという内容を表しています。(礒山さんのトークそのままです。すんません)
またこの曲はバスの独唱が大部分を占め、合唱は最後にちょこっと出てくるだけの独唱カンタータと呼ばれるものです。
1.アリア
2.レチタティーヴォ
3.オーボエ独奏付きアリア
4.アリア
5.コラール
苦難を表す冒頭のアリアから雰囲気充分で、なにより独唱を受け持つ三原さんが素晴らしい歌唱を聞かせてくれた。もううっとりと聞き入ってしまった。
またイエス(カトリックならイエスズか)の旅路を描く3曲目が特に素晴らしく。指揮者の延原さんがオーボエソロを受け持ち、バリトンとオーボエそれに通奏低音(チェロ、コントラバス、オルガン)だけのアリアが大変美しいものでした。
天国(彼岸)への強い憧れを歌う4曲目がすむと、まさに天国的な平穏さに満ちたコラールがコーラスによって感動的に歌われ、眼前に天国の門が開いていくような錯覚に囚われると、その至福に包まれた気持ちのままカンタータの幕が降りました。
曲が終わると今日一番の拍手が会場から湧き起こりました。いろいろ問題のあったオケもこの曲に限ってはまったく不満に思うところはありませんでした。ブラボーが出ても不思議ではなかった位です。
で、その勢いを受け、土橋さんも加わり「主よ、人の望みの喜びよ」を原曲の形で演奏されました。(もとはカンタータ第147番「心と口と行いと生活が」のコラール)
単純な音型なのに心に染みいってくるメロディと人間くささがまったくない透明で清楚なハーモニー。ほんとバッハは素晴らしい。
盛大な拍手に「このまま終わるのはもったいないですよね」ということでアンコールが掛かりました。
曲を用意してなかったとのことでG線上のアリアをもう一度演奏してくれました。まあ出来はさっきと一緒でなにも言うことはありませんが、前半よりちょっとだけマシでした。
アンコールは置いといて、今日のメインであるカンタータが大変感動的でした。
カンタータは2時間にも及ぶミサ曲や受難曲とは違い、30分ほどで終わりますし、毎週演奏されるためマンネリ化しないようにいろいろ趣向を凝らしていて気軽に聞けるものだと思います。今日の演奏を聞いて他のカンタータも聞いてみたいと思いました。
総じて、カンタータにこころ震わせた演奏会でした。
さて、次回は三大Bの二人目である(笑)ベートーベンの交響曲第2番、6番を朝比奈&大阪フィルによる演奏で聞きに行きます。
この演奏会とシンフォニーホールでする朝比奈隆の軌跡で取り上げる6曲と年末の第9を合わせてベートーベンチクルスとなります。
いったいどんな「田園」が聞けるでしょうか? 大変楽しみにしています。