ブルックナーやベートーベンで培ったノウハウを用いて演奏する朝比奈のマーラーは非常に個性的で独特な世界観を持っています。この曲は朝比奈のマーラー演奏においてもダントツの演奏回数を誇っており、レコードも突出した枚数が残されています。
ちなみに生涯で8回指揮しており(7回が大フィルで、1回が新星日本交響楽団)、初振りは69年の大フィル第75回定期公演で、95年の“朝比奈隆の軌跡”と東京定期公演が最後となっています。こうしてみると全演奏中7回が何かしらの形で残っていることになります。
(8回指揮したと大フィルレーベルのマラ9のライナーに書いてありましたが、レコーディングされていない残り1回の日付はわかりませんでした)
1969.4.4 L | 大阪フィル&アサヒコーラス他 | フェスティバルホール | − |
LP | 大阪フィル | 4484/5 | 自主制作 |
演奏について
大フィル第75回定期公演(前身である関響からだと通算200回目)となる演奏会。 未聴のため批評できず。 《独唱》 岡田晴美(S)/長野羊奈子(A) |
1976.6.6 L | 大阪フィル&同コーラス他 | フェスティバルホール | ★★★ |
LP | 大阪フィル | LRs492/3 | 自主制作 |
演奏について
大フィル第132回定期公演の模様。 冒頭だけで言えば一般的なテンポだと言えるが、そのテンポをずっと持続させていくため、全体的には遅めに感じる。また弦やティンパニのトレモロをきっちりと刻ませることをはじめ、各フレーズを丁寧に演奏していくので、確かな歩みでじっくりと音楽が進んで行く。 第2楽章の起伏に富んだ表現が面白く、間を取るところはたっぷりと取り、夢の中を漂うような感じを出している。 終楽章も一貫して遅いテンポを保っていて、腰の据わった恰幅のよい音楽が展開される。しかしスケールは大きいもの、マーラーに欲しいクライマックスのカタルシスが弱く、これは朝比奈とマーラーとの相性の問題かもしれない。 ちなみに合唱はなかなかの好演で立派だが、独唱に声がふらついているところが少しあり、その点が残念に思う。 《独唱》 樋本栄(S)/大藤祐子(A) |
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録音について
弦楽器のみが少し前面に張り出してくるイメージがあるもの木管の後ろに金管がいることを判別できるくらいの奥行き感がある。全体的な音像はやや遠く、弦楽器を除くと管楽器や打楽器は遠くに感じられ、管楽器について言えばダイナミックレンジも少し狭い。 一方、収録会場がフェスティバルホールとは思えないほどの残響が豊かに付けられているが、厭味は感じられない。 |
1986.7.16 L | 新星日本交響楽団&同コーラス&三多摩市民コーラス他 | 東京文化会館 | − |
LP | 新星日本交響楽団 | NAMI3011/2 | 自主制作 |
演奏について
今は亡き新星日本交響楽団の第93回定期公演の模様。 未聴のため批評できず。 《独唱》 大倉由紀枝(S)/辻宥子(A) |
1987.4.26 L | 大阪フィル&武庫川女子大音楽部&関西学院大学グリークラブ他 | ザ・シンフォニーホール | ★★★ |
LP | キングレコード | K25Y475/6 | |
CD | キングレコード | K30Y241/2 | |
CD | キングレコード | KICC156/7 | |
演奏について
大フィル創立40周年記念演奏会の模様で、キングレコードが収録した最後の演奏。 基本的に少しだけ遅いかな、と感じるくらいのテンポを採っているが、朝比奈には珍しく、テンポの緩急が激しく付けられており、特に第1楽章では他の指揮者ではやらないゲネラルパウゼ(全楽器の休止)を2箇所挿入していることに驚く。 中低音からの充実した音色はもちろんだが、76年の演奏と比べて音の透明感が上がり、響きも整頓され大変マイルドなものとなっている。曲の進め方自体は重いリズムをしっかりと踏みしめた力強いものとなっており、終楽章で合唱が入ってくると音楽に雄大さとパワフルさが加わり、クライマックスではなかなかの高揚感を与えてくれる。 インテンポを基調とする朝比奈がこれほど起伏に富んだ演奏をするのは非常に珍しく、他の「復活」の演奏とは一風変わったものとなっている。 《独唱》 豊田喜代美(S)/伊原直子(A) |
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録音について
音像はかなり近く、弦などはかなり野太い音で入っているが、全体に音の粒はばやけ気味で、特に打楽器は曇ってしまっている。ただ楽器の遠近感は比較的しっかりとしており、2ndヴァイオリンとチェロの後ろに木管、木管の後ろに金管が並んでいることがよく判る録音となっている。 |
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同時収録
R.シュトラウス…ツァラトゥストラはかく語りき(KICC156/7のみ) |
1988.11.6 L | 大阪フィル&武蔵野音大cho.他 | サントリーホール | ★★★ |
カセット | アフィニス音楽財団 | 番号なし | 非売品 |
演奏について
アフィニス音楽財団が無償で発行する「アフィニス・サウンド・レポート」の創刊号に収録された演奏。当財団が助成した「マエストロ朝比奈80歳記念東京公演」の模様で第5楽章のみの収録となっている。(ちなみに朝比奈はこの財団の理事に名を連ねていた) オケの音色が透明かつ深くなっていることにまず驚く。テンポ設定はゆったりとしているもの遅いというほどではない。また強弱の激しい演奏で、フォルテがスイッチを入れたみたいにスパッと立ち上がる。全体的に言えることはリズムは重いもの躍動感があり、バネのある曲運びとなっている。 合唱は大きな広がりを感じさせる歌唱をしており、非常にしっかりとしている。その合唱が入ってからは終盤に向かってじわりじわりとテンポが上がっていき、最後はストレートで熱いクライマックスが描かれて曲が締めくくられる。 全楽章揃っていないのが非常に残念だが、骨太でかつ素朴ながら推進力に満ち、熱血を感じさせる演奏となっている。 《独唱》 豊田喜代美(S)/伊原直子(A) |
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録音について
カセットテープなだけに左右や奥行きの広がりは良くないが、ダイナミックレンジはかなり広く取れている。しかしクライマックスの最強音ではガクッとレベルが落ちてしまい、音が急に小さくなってしまう。 |
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同時収録
・長岡実理事長インタビュー ・朝比奈隆インタビュー ・オルゴール演奏 |
1995.7.23 L | 大阪フィル&武蔵野コーラス他 | サントリーホール | ★★★★ |
CD | Pony Canyon | PCCL-00335 | |
CD | Pony Canyon | PCCL-00521 | HDCD |
演奏について
大フィル第34回東京定期公演の模様。 中庸的ながら落ち着いたテンポで曲が進められていくが、インテンポはさらに徹底されいる。(例外は第1楽章展開部の終わり近くにある2つのゲネラルパウゼとその後の大きなリタルダント) 音楽の流れは非常に良く、懐の深いゆったりとした曲運びとなっており、特に軽く演奏されがちな第2楽章の温かみある演奏は心に深く沁みてくる。またオケの音色はとても洗練された感じを与え、透明感ある音色はこのコンビ独自の美しさがある。 全体的には落ち着いてゆったりとした演奏だが、要所要所で聴かせるデモーニッシュな轟音は凄まじく、大フィルの底力を見せ付けてくれる。またこれだけの長大な曲を一本の大きな流れの下で演奏していく朝比奈の構成力の確かさは非常に素晴らしい。 合唱が加わるとじっくりと音楽は熱くなっていき、クライマックスではゆったりとしたテンポのまま非常にスケールの大きな音楽となり、大変白熱したものとなる。コーラスはピッチの揃った確実な歌唱を聴かせてくれ、大変優れている。 《独唱》 井岡潤子(S)/竹本節子(A) |
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録音について
ホールトーンが豊かに入っていて、楽器の定位はそれほどシャープではないが、楽器がどのような配置になっているのが自然に伝わってくる。 また音色自体が鮮度良く入っており、ダイナミックレンジも広く、ストレスなく音が立ち上がる録音となっている。 |
《 総 評 》
現在所有している4種の演奏を通して聴いてみると、後年になるにしたがって音色が美しく、洗練されていくのがよく伝わってきます。朝比奈自体のアプローチには大きな変化は見られませんので、95年のものがコーラスの実力も含め一番優れていてお薦めとなります。
残されているレコードの数では確かにこの2番がもっとも多いのですが、実際は古い自主制作LPが半数を占め、聴くことが非常に困難な音源ばかりとなっています。
大フィルやグリーンドアさんにはぜひ頑張ってもらって、これらの自主制作LPを市販化して欲しいのですが、どうでしょう?
95年7月8日のザ・シンフォニーホールでの演奏は朝日放送が録画しており、過去にテレビ放映されたことがあります。またひょっとするとポニーキャニオンが録音テープを持っているかもしれません。
当ページで使用した略称
・大阪フィル=大阪フィルハーモニー交響楽団