朝比奈隆コンサート 神戸ポートピア公演

日時
1998年11月23日(月)勤労感謝の日 午後3:00開演
場所
ポートピアホール
演奏
大阪フィルハーモニー交響楽団
指揮
朝比奈 隆
独奏
加藤 知子(Vn)
曲目
1.メンデルスゾーン…ヴァイオリン協奏曲ホ短調
2.ベートーベン…交響曲第3番変ホ長調《英雄》
座席
1階N列44番(A席)

演奏会感想

§はじめに§
12時に奈良を出て、阪神高速神戸線を走り、1時すぎにポートピアアイランドに着いた。市民広場の地下駐車場に愛車クーペフィアットを停め、2時15分の開演まで時間つぶしにそこらをブラブラすることにした。

う〜ん、いい天気だ、暖かい。運転に疲れた身体をほぐすように背伸びをして、大きく息を吸う。先週の肌を刺すような寒さが嘘のようだ。周りを見ると市民広場では、ピラミッドの噴水前で子供達がキャッチボールをしている。いいねー子供は風の子、うんうん。
広場を歩いていると所々不自然に盛り上がった石畳があった。こんな所にもまだ地震の傷跡が残っている。

ホールがあるポートピアホテルの横に”Kou’s”という小さなショッピングセンターがあった。そこに足を向けると「ねこだいすき」という催し物をやっていた。ふらふらふら〜と中に吸い込まれていく。中に入るとほのかにネコションの香り。ちょっとげんなり。中は家族連れとカップルしかいないのに気付いたが、すでに後の祭り。しかし世界中の猫ちゃんを実際に膝で抱けて至福の時間を過ごす。
ベンガルという猫がいたく気に入ったが、どうも新種の猫らしくペットショップなどで売ってるものではないらしい。黙って連れて帰ろうとしたが係員に肩を掴まれ「チッ、チッ、チッ」と人差し指を口の前で振られたので泣く泣く断念する。あれぽちい。

時間が来たので指をくわえたままポートピアホテルへ。ロビーから渡り廊下を歩きホールに足を踏み入れた。ゴージャスな内装。できて1年半ほどのホールはまだ少し木の匂いを漂わせていた。ふと見るとホワイエの隅でCDが売っていた。覗いてみたがポニーキャニオンのものばかりだったので買う必要はなかった。(全部持っていた) 大フィル自主制作のCDが全くなかったのは残念。

席は前から14列目の一番右だ。でもそんなに不満はない。オケもよく見える。椅子を倒して腰を掛ける、背中を立てるいい感じの椅子だ。しかしちょっとお尻が前にずる感じがするな。
ここで音響のことを言うと、非常にまろやかな音がステージからやってくる感じだ。残響もそこそこ良い。いいホールだと思う。まあ、シンフォニーホールの持つ豊穣な音が全身を包む込む音響と比べたら可哀想だ。しかしフェスティバルホールよりは格段に良い。(今となってはフェスティバルホールはひどすぎ)

客席はほぼ満席。年齢層はメチャ高く、爺ちゃん婆ちゃんだらけ。なかにはつえを突いた人や、車椅子の人までいた。そうかこのコンサートは普段オーケストラが聴きたいけど大阪まで出るのが大変な人がけっこういるんだな。
まあ一番のジジイがステージの真ん中で棒を振ってんだから、オッサンから見ればみんな若造か。アハハ。

さて、楽団の音合わせが終わると、客席の明かりも落ち、ソリストとコンダクターの登場を待つだけとなった。
そして加藤さんがバラの花びらのような赤いドレスで登場すると、続いて朝比奈御大が登場した。会場にわき起こる大きな拍手。御大の足取りはゆっくりとしているものしっかりとしていた。
ソリストがすっとヴァイオリンを構えるとすぐさまタクトが振り下ろされた。

メンデルスゾーン…ヴァイオリン協奏曲ホ短調
ソリストは最初からエンジン全開で、メロディを思い切りよく歌っていた。
驚いたのはオケの方で、このロマンティックな旋律美に溢れた曲を指揮者は無骨なまでに素っ気なく鳴らしたのだった。朝比奈らしい。
ヴァイオリンも良く音が出ていて、朝比奈のゆっくり目のテンポに良く追いて行っていた。そのお陰か旋律を充分に歌い込んで、この曲の持つ美しい旋律をたっぷりと堪能することができた。
指揮者もヴァイオリンのソロでは指揮台の手摺りに掴まってソリストの音に聞き入ってました。
この前のシンフォニーホールでブラームスの1番と一緒にした時の演奏はニフティーでメタメタに書かれていたが、今日のは自分で聞く限り、かなりの良演だと思った。
ただ第1楽章後半の表現がいささか平坦だったのと、音色にもう少し繊細さと透明さが欲しかったがこれは今後の課題だろう。

ベートーベン…交響曲第3番変ホ長調《英雄》
休憩を挟んで次はエロイカだ。CD菜園で最初に取り上げた曲だけに惚れ込み方は半端ではない。
朝比奈は以前何かのインタビューで「この年になると3番でのあのガーッと集中する1時間はもう辛い」と言っていたが、さてさてどうなるかな?

冒頭の2つの和音の間隔がかなり開いていたのでドキッとする。しかしチェロの出だしはいつものテンポだったんでホッとした。曲の解釈自体は89年のCDと同じと言って良い。ただ演奏の持つ雰囲気は96年のCDより少し枯れたものだ。
しかし90歳になって、いつもと同じ曲をやっても、いつもと同じにならないのが朝比奈のすごい所、今日もエキサイティングな箇所があった。
まず第1楽章がかなり大胆なテンポの揺らし方をしたことだ。特に顕著だったのは展開部で新主題が出て一段落ついた所(音楽之友社のポケットスコアで330小節)からのpをおおっと思うくらいにテンポダウンさせた。この遅いテンポが再現部直前まで続き、聞いてる方はかなり緊張した。
第1楽章のスローテンポが上手く行った為か、第2楽章もゆっくりと踏みしめるようなテンポで進んでいった。荘厳で重々しい素晴らしい演奏で、今日の白眉となる楽章だった。
なんと言ってもマッジョーレ後半からホルン6本の斉奏を経て、弦が細かく刻む中、金管がリズムを、木管が第1主題を奏でる所(173小節)は全身が打たれるように痺れた。
しかし超スローテンポの中、非常に強い緊張を強いられた為か、(187小節辺りだったな?)ついにオケが精神的に力つきてしまった。
この後は当たり障りのない演奏が続いたが、終楽章の最後の方でぐっとテンポが落ちる所(ポコ・アンダンテ)から息を吹き返し、再び懐深い音を聞かせてくれた。プレストも良しと言える範疇。
98年のCD程ではないがかなり良い演奏だと思う。

§さいごに§
演奏が終わると満場の拍手が起こった。でも御大は燃え尽きたのかちょっと憔悴しているようにも見えた。
カーテンコールで指揮者が管セクションを立たせていたように今日は管楽器が実に中身の詰まった良い音を出していた。ビオラがちょっと弱かったかな?
拍手を全身に浴びてすごく満足そうな御大。ゆっくりと観客席のお客さんの顔を見ていく。私ともパチッと目があった。すごく嬉しかった。乙女のように頬を赤らめる私(大嘘)。
御大には大変だろうが、これからも命あるかぎりステージに立って欲しいと身勝手ながら思ってしまう。(もっと身勝手ながら、ブルックナーをやって欲しいと思う)

最後にひとつ、このコンサートで困ったことがあった。「はじめに」でも書いたが、今日は普段コンサートに来れない人が多かった。中には「あの朝比奈隆が神戸に来るなら一度見に行こうか」といった物見遊山的な人もいただろう。この人たちはコンサート慣れしていないのかマナーがちょっと悪かった。何より困ったのは演奏中にしゃべることだ。テレビの歌番組を見てんじゃないんだから、遠慮のない声であーだこーだしゃべるのは勘弁して欲しかった。こんなこと錆びついた脳細胞でも少し働かせれば解ると思うけどなあ。横の人間も注意しろよな。後、ハンカチを口に当てないで咳をする人とか、パンフレット入れたビニール袋をパリパリ言わす人とか、寝息スーカスカ立てて眠り込んでいる人や、困ったちゃんがいっぱいいた。でも携帯電話鳴らす人がいなかったのはさすが年齢層が高いだけある。え? 年寄りはそんなもん持たねえ?
聴衆は自分ひとりではないので他の人間の存在を認めなくてはならないことは充分解っているつもりだが、演奏が良かっただけにこれらのことが気になって、こちらの集中力が削がれてしまったのは無念だった。

総じて今日は敬老の日と化した一日でした。

さーぁて、来週はハンガリー国立交響楽団によるマーラーの《復活》だよっ。”コンサート道中膝栗毛”へのアップは仕事の都合で少し先の12月13日頃になる予定です。待っててね。(即時性が売りのインターネットで何悠長なことやってんだか・・・・・・)

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